『ファーストペンギン!』で見えてくる、今の日本に蔓延する“おじさん社会”の問題
もう一つの魅力は、脚本を担当する森下佳子が紡ぎ出す現代的な物語である。森下は『JIN-仁-』(TBS系)や『義母と娘のブルース』(TBS系)といった原作ものから、連続テレビ小説『ごちそうさん』(NHK総合)や大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK総合)といったオリジナル作品まで幅広く手掛けるヒットメーカーだ。
民放のドラマでは原作ものを手掛けることが多い森下だが、ドラマでは難しい題材を、わかりやすい物語に落とし込んだ上で、深みのあるテーマを描けることが、彼女が持つ最大の武器である。それは『ファーストペンギン!』でも同様だ。
本作は、シングルマザーの成功物語を入り口に、漁業という馴染みのない世界に蔓延している複雑怪奇なしがらみを一つ一つ丁寧に紐解いていく。その先に見えてくるのは、今の日本に蔓延する“おじさん社会”の問題だ。
お魚ボックスを事業化するために動きだした和佳は、組合長の杉浦久光(梅沢富美男)が率いる汐ヶ崎漁業協同組合からひどい嫌がらせを受け、漁師たちも協力してくれない。そんな中、和佳は様々なアイデアを駆使してトラブルを乗り越えていくのだが、その過程で露になるのが、頭の固いおじさん達が牛耳る「おじさん社会」の実態だ。
そんな「おじさん社会」に、和佳が果敢に立ち向かっていく姿こそが本作の見どころなのだが、一方で和佳は漁協ともうまくやっていきたいと考えており、だからこそテレビ出演した際にも漁協の嫌がらせを告発しなかった。坪内知佳の原作でも、漁協から受けた嫌がらせについては書いているが、対立する関係ではないと、彼らの立場に理解を示している。
和佳の考え方は「前向きな諦め」だと、筆者は受け止めている。それだけ「おじさん社会」としての日本は、盤石で揺るがすことのできない現実だということだが、本作が面白いのは、最終回直前で和佳とは違う立場から「おじさん社会」としての日本を揺るがそうとする元官僚のコーディネーター・波佐間成志(小西遼生)を登場させたことだ。
食品会社「神饌オーガニクス」との間をつなぐことで、和佳たちを救った波佐間は汐ヶ崎の漁師たちをまとめて会社組織にすることを提案。和佳はその提案を受け入れるのだが、農水省の溝口静(松本若菜)から「神饌オーガニクス」は、表向きは日本企業だが、株主は外国人と外国企業で、経済的な侵略を目論んでいると聞かされる。
そして、漁協は外国から入ってくる怪しい企業を弾く抑止力となっていたという視点が提示されるのだ。外国企業という和佳たちと漁協にとっての共通の敵を描くことで、森下佳子は「おじさん社会」としての日本をどう捉え直そうとしているのか? 最終回が楽しみだ。
■放送情報
『ファーストペンギン!』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:奈緒、堤真一、鈴木伸之、渡辺大知、松本若菜、ファーストサマーウイカ、遠山俊也、志田未来、中越典子、梶原善、吹越満、梅沢富美男
脚本:森下佳子
演出:内田秀実、小川通仁ほか
企画プロデューサー:武澤忠
プロデューサー:森雅弘、森有紗
チーフプロデューサー:三上絵里子
主題歌:緑黄色社会「ミチヲユケ」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
制作協力:日テレアックスオン
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
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