『ファーストペンギン!』で見えてくる、今の日本に蔓延する“おじさん社会”の問題

『ファーストペンギン!』おじさん社会の問題

 水曜ドラマ(日本テレビ系水曜22時枠)で放送されている『ファーストペンギン!』が12月7日に最終回を迎える。本作は、シングルマザーの岩崎和佳(奈緒)が、漁師の片岡洋(堤真一)に頼まれて、とれたての鮮魚を消費者に直売する「お魚ボックス」を収益化させていく姿を描いた起業ドラマだ。

 原作は坪内知佳の『ファーストペンギン シングルマザーと漁師たちが挑んだ船団丸の奇跡』(講談社)。坪内は、山口県萩市で大勢の漁師を束ねて「萩大島船団丸」を設立し、朝採れした水産物を箱詰めにして消費地へ直送する鮮魚ボックス事業を成功させたコンサルタントで、主人公のモデルとなっている。

 本作の魅力は多数あるが、まず何より、主人公の和佳を演じる奈緒の芝居だろう。連続テレビ小説『半分、青い。』(NHK総合)でのヒロインの親友や、ミステリードラマ『あなたの番です』(日本テレビ系)での不気味な女性など、脇で光る演技をみせることで着々と実績を積み重ねてきた奈緒だが、本作は民放ゴールデン・プライムタイムの連続ドラマ初主演となる。

 そのため、彼女に主演が務まるのか半信半疑で観ていたが、第1話終盤で和佳が「イカれてんのは、てめぇだ。タコ!」と啖呵を切る場面を見て「大丈夫だ」と確信した。

 第2話以降も毎回、彼女の演技が映えるエピソードが用意されており、衣装や髪型の変化や話す相手に応じて振る舞いが変わっていく奈緒を楽しんだ。第3話末で、和佳が年配の漁師たちと距離を縮めるためにジャージを着てタメ口で喋るようになってからは、丁々発止のやりとりが増えて会話劇としての面白さも増していった。

 一見ふつうにみえるが、和佳は複雑なキャラクターだ。基本的には庶民的な常識を持つシングルマザーだが、一方で相手を説得するためにあの手この手を駆使する頭の切れる戦略家的な側面もあり、感情的になって怒りをぶつけることも多い。行動の根底になるのは、学生時代に「同調圧力に従ってしまった」という苦い記憶で、だからこそ今度は逃げたくないと思い「お魚ボックス」を阻もうとする抵抗勢力には全身全霊で立ち向かう。状況に応じて表情や考え方が変わっていく和佳を奈緒は好演しており、彼女の表情の変化を追っていくだけでも楽しめるドラマとなっている。

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