私たちにはラブソングが必要不可欠だ 『First Love 初恋』が生み出した奇跡

『First Love 初恋』製作背景と物語

 また、そんなふうに丁寧に作り込まれた本作を観ていると、もっと解像度を上げて日常を見つめてみたくなってくる。悲しいかな、人は忘れていく生き物だ。それが今の自分を構成する大事なピースだったはずなのに、すっかり忘れてしまうことも決して珍しくない。脳のメモリは日々のことですぐにいっぱいになってしまうし、若き日の自分はちょっぴり恥ずかしくて意識的に記憶の隅に追いやってしまうこともあるから。気がつけば、ぼんやりと生きていくことに慣らされてしまう。

 だからこそ、私たちにはラブソングやラブストーリーが必要なのかもしれない。「運命」と呼びたくなるような出会いに体温が上がったり、「あの人に近づきたい」「今なら何でもできる気がする」と細胞1つひとつが沸き立っていく感覚。その瞬間が実際にあったり、いつその瞬間が来てもいいようにと爪を研いでいた、そんなピュアな自分を思い出すことができるから。

 それが遠い遠い“あの頃”になってしまっていたとしても。「もう今さら動けない」「どうせ失敗するに決まってる」なんて諦めようとしていたとしても、だ。時代や年齢、環境によって、どうすることもできない様々な障壁があるのは否定できないけれど、それでも愛を告げ、気持ちに嘘をつかずに進めば、きっと物事は前へ前へと動き出すことができる。そんな勇気をもらえる作品とも言えるだろう。

 また何よりもこれだけのストーリーに没入することができたのは、W主演の満島ひかり、佐藤健を筆頭とした魅力的なキャストたちの演技力の賜物だ。配信記念プレミアイベントで、満島は「この作品をやるって決めたときに、一生こういう作品はやらないかもしれないけど、自分の人生で持ってきた美しいなと思えるものとか悲しい思いしたこととか痛みとかも、みんなまとめて出せたらいいなと思ってました」と語っていた。

満島ひかり・佐藤健が登壇!「First Love 初恋」配信記念プレミアイベント【ライブ配信映像】

 そうした俳優が持っているものを出しきるためにも、潤沢な資金や製作時間というのは大事だったと振り返ったのは佐藤だ。「1カット1カット時間をかけて妥協することなく作ることができて俳優にとってはこれ以上ないくらい贅沢な現場でした。でも、この環境を当たり前だと思ってなくて。当然ですけどすごくお金がかかることだし、結果が出なかったら来年、再来年に同じ環境でものづくりができるかというとわからないので。日本のエンターテインメントを盛り上げるためにも、もし面白いと思っていただけたら一緒に盛り上げていただけたら嬉しい」とコメントしたのも印象的だった。

 世界はなんと狭いものだ。とは、物語の中にも出てきた言葉だ。日本にはこんなにも素晴らしいキャストや作り手がいるということが、この作品の持つエネルギーごと世界へと飛び立っていってくれたら……。運命に翻弄されながら突き進む難しさと尊さを描く本作が、日本のエンターテインメントの運命そのものを突き動かすピースになるかもしれない。

参考

https://otocoto.jp/news/first-love1115

■配信情報
Netflixシリーズ『First Love 初恋』
Netflixにて、全世界独占配信中
出演:満島ひかり、佐藤健、八木莉可子、木戸大聖、夏帆、美波、中尾明慶、荒木飛羽、アオイヤマダ、濱田岳、向井理、井浦新、小泉今日子
Inspired by songs written and composed by Hikaru Utada / 宇多田ヒカル
監督・脚本:寒竹ゆり
エグゼクティブ・プロデューサー:坂本和隆(Netflix)
プロデューサー:八尾香澄
制作プロダクション:C&I エンタテイメント
原案・企画・製作:Netflix

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