『80日間世界一周』で聴く、ハンス・ジマー・ブランドの迫力 英国文化にも浸れる一本に

『80日間世界一周』は英国文化にも浸れる一本

 『80日間世界一周』を魅力的な時代劇にしているのは、世界史とのまじわりである。主人公たちが最初に降り立ったパリは「パリ=コミューン」後の騒乱まっただなか。あからさまに裕福で隙だらけなフォッグは、馬車から降りた瞬間に身ぐるみを剥がされてしまい、大統領暗殺計画にまで巻き込まれていく。イエメンでは、実在した「恋多きお騒がせ英国貴族」ジェーン・ディグビー(リンジー・ダンカン)が登場し、アビゲイルとのあいだに「性差別と戦う女性」同士のドラマが起こる。

 深い影を落とすのは、インド編だ。現地の結婚式の伝統を軽んじるような発言をするフォッグに対して、現地女性は、紅茶目当てに同国を支配する英国に対する疑念を明かす。当時英国領だった香港では、英国人の手にわたった先祖の宝を取り戻そうとするマフィアが登場。映画『ブラックパンサー』で描かれた「他国の文化財を略奪した大英帝国」問題の構図に近い。

 こうした特権制や格差は、人間関係にも作用してくる。主人公3人組のうち、フォッグとアビゲイルはリッチな白人だ。一方、従者であるパスパルトゥーは、2人とのあいだの格差を認識しており、やや傲慢なフォッグと距離ができていく。南北戦争後のアメリカにわたると、強烈な人種差別も体感し、アビゲイルとの仲も引き裂かれていく。

 ただ、アビゲイル役のレオニー・ベネシュが語ったように、『80日間世界一周』はあたたかいユーモアにあふれている(※2)。彼女の役と主人公は、知ったかぶりで話しつづける「英国的無知」を特徴としているが、巧みな演技もあって、ゆるい愛嬌のようになっている(ちなみに、2人に対し、パスパルトゥーは「美食のフランス人」であることを嫌味に誇る)。ある種、このような皮肉ジョークも、ブリティッシュらしいと言えるだろう。

 じつのところ、音楽も「英国流」と言える。顕著なのは、旅のはじまりと終わりの地であるロンドンをイメージしたオープニングテーマで、ビッグベンの秒針の音が鳴り響く。世界各国のBGMにしても、ローカル性を意識しつつ、ロンドントーンなサウンドで統一性を持たせているそうだ。

 『80日間世界一周』は、さまざまな国の魅力を味わえると同時に、英国文化の魅力にも浸れる一本だ。シーズン2の制作も決定しているため、やはり、観るなら今だろう。

参考

※1 英Radio Timeより
※2 https://www.radiotimes.com/tv/drama/leonie-benesch-around-the-world-in-80-days-big-rt-interview/

※記事初出時、本文に誤りがありました。訂正の上、お詫び申し上げます。

■配信情報
海外ドラマ『80日間世界一周』(全8話)
・字幕版
スターチャンネルEXにて配信中 ※第1話無料配信中
BS10 スターチャンネルにて、毎週木曜23:00〜ほか放送中
・吹替版
スターチャンネルEXにて、毎週金曜、最新話配信中
BS10 スターチャンネルにて、毎週金曜22:00〜ほか放送中
2023年1月2日、1月3日23時より第1~7話一挙再放送

脚本・製作総指揮・クリエーター:アシュレイ・ファロア
監督:スティーヴ・バロン
出演:デヴィッド・テナント、イブラヒム・コーマ、レオニー・ベネシュ、ジェイソン・ワトキンス、ピーター・サリヴァンほか
©︎Slim 80 Days / Federation Entertainment / Peu Communications / ZDF / BeFILMS / RTBF (Télévision belge)– 2021
スターチャンネルEX 配信ページ:https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B724NPPP/
スターチャンネル 作品公式ページ:https://www.star-ch.jp/drama/aroundtheworldin80days/sid=1/p=t/

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