『鎌倉殿の13人』北香那&加藤小夏、“鎌倉殿の正室”として見せた悲しみと強さ
また、狙われる側の三代鎌倉殿実朝の正妻の千世(加藤小夏)は跡継ぎが望めないという状況に変わりはないものの、着実に実朝との信頼関係を築いていた。拝賀式に実朝を送り出すときの晴れやかで優美な笑顔。「右大臣様、行ってらっしゃませ」という千世に、実朝は「私は上皇様に2つ感謝しなければならない。このような過分な官位を下さったこと。お前を引き合わせてくれたこと」と言った。
千世は後鳥羽上皇(尾上松也)のいとこで、京の実力者である権大納言・坊門信清の娘。身分の高さを鼻にかけることもなく、むしろ鎌倉の暮らしに順応しようとする奥ゆかしさも魅力的に映る。繊細な性格の実朝が心を開いてくれず、不安な時期を過ごしたこともあった。
第39回「穏やかな一日」では、世継ぎができないことを周囲が心配し、乳母の実衣(宮澤エマ)が側室の話を具体的に進めようとしたとき、千世から実朝に「私に、そのお役目がかなわぬのならぜひ側室を」と切り出した。実朝は側室を持つことを拒否、「あなたのことが嫌いなわけではないのだ、嘘ではない」と話し、「では、どうして私からお逃げになるのですか。私の何が気に入らないのですか」と、それまで言えずにいた思いを吐き出した。
千世のまっすぐで素直な思いを受け止め、実朝は重い口を開いた。「初めて人に打ち明ける。私には世継ぎを作ることができないのだ。あなたのせいではない。私は……どうしても、そういう気持ちになれない。もっと早く言うべきだった。すまなく思うから、一緒にもいづらかった」と誰にも言えなかった思いを告白した。
それまで何となく避けられ、距離を置かれることに寂しさを感じていた千世は、「ずっとお一人で悩んでいらっしゃったのですね。話してくださり、うれしゅうございます」と静かに実朝を抱きしめた。
鎌倉殿の子を産めないということは正室の千世にとっては、大きな心の負担となった。でも、それ以上に実朝が重大な秘密を自分だけに打ち明けてくれたという事実が彼女を強くした。実朝の孤独や苦しみを千世は深い愛情で受け止められるようになっていたのだ。お互いを尊重し、思いやることのできる理想的な夫婦として、京から親王を迎えようとしていた矢先の、この実朝暗殺計画。
鎌倉殿をめぐるドラマは、鎌倉殿の正室として生きる女性たちの運命をも大きく動かしていく。彼女たちの心情を思うと、次回の予告からして胸のざわつきが収まらない。
■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK