『鎌倉殿の13人』北香那&加藤小夏、“鎌倉殿の正室”として見せた悲しみと強さ

北香那&加藤小夏、“正妻”としての好演

 鎌倉殿の正妻となったことで自分の人生が激変しただけでなく、北条家すべての人を巻き込み政治の中心で生きることになった北条政子(小池栄子)。『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第44回「審判の日」では、鎌倉最大の悲劇ともいわれる源実朝(柿澤勇人)の暗殺を前に、鎌倉殿と深く関わる女性たちの姿が鮮やかに、際立って印象深く描かれた。

 流人だった源頼朝(大泉洋)と恋に落ちて、自ら望んで妻となった政子。頼朝の死後、長男の頼家(金子大地)が二代目鎌倉殿となる。頼家がまず妻としたのは、乳母夫として有力御家人だった比企能員(佐藤二朗)の娘のせつ(山谷花純)で、長男となる一幡が生まれた。その後、父に三河武士の賀茂重長、母に頼朝の叔父・源為朝の娘という源氏の血を引く美しいつつじ(北香那)が頼家の寵愛を得て正妻となった。

 長男の一幡をよりどころに、正妻のつつじにライバル心を燃やしていたせつだったが、北条と比企の対立が目立って険悪になり、比企の乱によって悲劇的な最期を遂げる。この比企の乱をきっかけに頼家を育てた比企氏が北条によって滅亡。病から奇跡的に生き返った頼家の居場所はなくなり、修善寺に幽閉され、北条義時(小栗旬)によって暗殺された。

 そんな混乱のなか、2代目鎌倉殿の正妻として、つつじは幸せな時間をどれだけ過ごせたのだろうか。北香那が演じるつつじという女性は、穏やかな人柄ゆえ人間関係に疲れた頼家の癒しであり、シビアな現実から逃げたくなったときに温かく迎えてくれる存在でもあった。比企能員の娘であるせつの対抗心を煽ることもせず、何事も冷静に対処していく賢さも持ち合わせた女性として描かれている。

 頼家亡き後、三浦義村(山本耕史)の庇護のもと、つつじと頼家の嫡男・善哉(後の公暁)は、ひっそりと寺で暮らしていた時期があったのだが、そのときに突然現れたのが比企尼(草笛光子)だ。

 そして、幼い善哉に「あなたこそが次の鎌倉殿になるべきお方。北条を許してはなりませぬ」と呪いのような言葉を投げかけた。比企尼と息子のやりとりを、つつじは知らない。

 12歳で出家して修行を積んだ公暁(寛一郎)は、祖母・政子の意向で鶴岡八幡宮の別当となった。確かに自分の意志ではなく、仏門に入れられて厳しい修行をさせられているという意識が彼のどこかにあるのだろう。千日参籠と称し、籠って修行をしなければならないのに、何かあるとすぐ外にでてしまう。「ちゃんとその都度、一からやり直しております」と公暁は言うけれど、心は鎌倉殿になる野心で燃えたぎっている様子。

 公暁の不穏な動きは、母のつつじでさえ察知するほど目立ってきたようで、心配したつつじは参籠中の息子を訪ねた。「参籠から、出入りを繰り返していると聞きました」「おかしなことを考えてはいませんか」と、息子の身を案じたつつじは公暁の瞳をまっすぐに見据えて問いかける。

 「なぜそうお思いですか」という公暁に、「あなたの母親だからです。厳しい修行をしている隣で、実朝様の右大臣の拝賀が行われようとしている。恨みも募りましょう」と息子の本心をズバリと言い当てる。「そんなことはない。めでたいではないですか」とあくまでも認めない息子に対して、彼女は母として「あなたはあなたの道を生きるのです。立派な僧となって、八幡宮の別当として、鎌倉殿をお支えする。それが天から与えられた道」と説く。

 つつじは、頼家の忘れ形見である息子の命が狙われないように「争いごとに巻き込まれずに生き延びてほしい」と強く願わずにいられない状況を生きてきた。だからこそ、公暁が「では、母上が与えられた道とは何なのですか。父上を無残に殺され、息子を仏門に入れられ、暗君の妻として謂れなき汚名を受けて生きなければならなかった、母上の道とは……」と言い出したときも、動揺はしても、「私は少しも悔いてはおりません。なぜだが分かりますか。頼家様が私に授けてくれたあなたがいたから。あなたがすべきは、千日の参籠を成し遂げること。命を危うくしてはなりません。生きるのです。父上の分も」と、本心を伝えることができたのだろう。

 控えめながらも、芯が強く、愛情深い母親として公暁を見守ってきたつつじ。彼女の愛のある言葉をもってしても公暁の野心を抑えることができず……。つつじが言葉にした「天から与えられた道」「天命」の意味を考えずにはいられない展開となった。

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