韓国コンテンツを底上げ? 「百想」「MAMA」など数々の授賞式と、愛ある批判文化
授賞式の裏にある韓国視聴者の“愛ある批判文化”
百想芸術大賞をはじめとする授賞式の厳しい評価基準が保たれているのは、どこの国よりシビアな韓国視聴者の“作品を観る目”があるからだ。『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞を獲った際、CJグループのイ・ミギョン副会長が、「率直な意見を表現するのに躊躇がなかった韓国の観客に本当に感謝しています。おかげで決して自己満足することなく、さらにクリエイティブな映画を作ろうと努力できた。観客がいなければ、この席にいなかっただろう」(※1)とスピーチで語っているが、まさにここに韓国エンタメの進化の理由があるように思う。
かつては「視聴者の声で結末が変わる」という話があったほど、韓国エンタメにおいて視聴者の声は絶大だ。これは映画やドラマに限らず、音楽においても同じ。彼らは、「いい作品」のため、愛ある批判と激励を飛ばし続ける。ドラマを観る際に、番組掲示板や韓国のレビュアーたちの声をネット上で見ることが多いが、一般の視聴者であることが俄かに信じがたいほど、演出から脚本、俳優の演技まで驚くほど細かく分析され、評価されている。さらにトレンドに敏感で新しい物好きな国民性もあり、エンタメにおいても常に「新しいもの」を求めているように思う。時にはかなりシビアな意見も飛び交うが、その貴重な意見と評価基準の高さがあるからこそ、彼らを満足させる一枚上手な作品作りが成されるのだろう。
また、百想芸術大賞でのファン投票によって決まる人気賞ほか、音楽授賞式MAMAでのSNS上のハッシュタグ投稿などファンによる投票のみで決まる「Worldwide Fans’ Choice TOP10」など、ファンが“参加している”感があるのも、授賞式そのものにエンタメ性があって面白い。俳優やアーティストはもちろんだが、韓ドラオタクやK-POPオタクも、推しや作品を追うとともに、競争の場が用意されることによって、さらに応援に熱が入るという効果もあるかもしれない。
トレンドとともに変化し続ける授賞式
歴史ある賞であっても、常にトレンドをキャッチして、時代とともに変化し続けているのも韓国らしいところだ。OTT(動画配信サービス)オリジナルコンテンツの躍進が顕著な時代の流れを汲み、今年はOTTコンテンツを対象にした、韓国初の授賞式『青龍シリーズアワード』が開催された。さらに今年の百想では、本格的な審査前に、グローバルOTTの主要関係者、ドラマ・芸能・映画製作会社代表、大衆文化評論家、作家、PDなどの専門家とシンポジウムを開いた。急変する生産トレンドを分析し、審査基準について議論するためだ。その流れもあり、テレビ部門大賞を受賞した『イカゲーム』をはじめ、作品賞を受賞した『D.P. -脱走兵追跡官-』、脚本賞を受賞した『未成年裁判』などNetflixオリジナル作品が席巻。国内での評価に加えて、海外での話題性や評価なども考慮して、柔軟に変化し続けているのだ。
映画『ミナリ』のスンジャ役で、韓国映画史上、韓国の女優としては初めて、第93回アカデミー賞で助演女優賞を受賞したユン・ヨジョン。彼女の青龍映画賞でのスピーチが印象深い。
「英国メディア、ガーディアンズのインタビューで、『パラサイト 半地下の家族』、BTS、『イカゲーム』と韓国大衆芸術がこのように突然世界的に脚光を浴びている理由を聞かれたが、“私たちはいつも良い映画、ドラマを持っていました。ただ世界が今、私たちに突然注目しただけ”と答えた」(※2)
彼女の言葉通り、数々の評価の場と、韓国視聴者の厳しくも愛ある声によって芽生える「いい作品を作っている」という情熱と自信が、着実に国際舞台の扉を叩きながら、韓国エンタメが常に限界を超えて進化していく原動力なのかもしれない。
参照
1. https://www.inews24.com/view/1241604
2. https://www.hankookilbo.com/News/Read/A2021112620320001010