『魔法にかけられて2』が描く“おとぎ話”の問題点 15年前の前作からの変化とは?
悪い継母になる快感と、心優しいプリンセスであろうとする理性の葛藤で、ひとりごとのように全く異なる人格同士で口論するという難しい演技を成立させ笑わせるところは、さすがエイミー・アダムスである。それだけでなく、どんどんヴィランへと変貌し、マーヤ・ルドルフ演じる悪の女王とミュージカルで張り合うシーンは最大の見どころといえるだろう。前作に引き続き曲と歌詞をそれぞれ手がけたアラン・メンケンとスティーヴン・シュワルツのコンビは健在だ。
素直な乙女を演じるよりも、邪悪な欲にまみれたヴィランを演じる方が、多くのスキルを要求される。俳優のベテランとしての経験や人生の経験などが必要となってくるのだ。その意味で、ここで堂々ヴィランを演じているエイミー・アダムスを見ると、年齢に沿った成長があると感じられる。ミュージカルスターでありながら前作では歌声を披露しなかったイディナ・メンゼルもまた、ディズニー・アニメーション映画『アナと雪の女王』シリーズでエルサの声を演じるなどの活躍を経て、満を持して本作で美声を響かせながら、サポート役に徹している。
このように、ジゼルが悪役になっていくという展開は意外性があって新鮮ではあるものの、現実社会のなかにプリンセスが現れることでの違和感が楽しかった明快な前作と比べると、すっきりと飲み込めるものにはなっていないのではないかという印象もある。また、プリンセスという要素を利用した社会風刺の要素も弱いと感じられるかもしれない。
だが、考えようによるとこれは、年をとるとディズニープリンセスの世界では、プリンセスでいることができないという事実をも示しているのではないか。ディズニーのクラシック作品に限らず、ハリウッドでは近年、ミドルエイジの女性の大きな役柄が比較的少ないと主張する俳優が増えてきた。メリル・ストリープが、「40歳になったとたん、1年で魔女役のオファーが3件もきた」と語っている(※1)ように、女優は年齢で役が極端に限定される傾向にあるというのである。
いわんや『白雪姫』(1937年)のようなクラシカルな物語においては、老いていく魔女が若さに嫉妬する悪として描かれることすらある。このような女性同士の分断や、女性の若さを消費する価値観をこそ、本作は問題視しているのではないか。
現実よりもおとぎ話の方に気持ちが傾いてしまうのは、その人たちが本作のジゼルのように、現実が辛いと感じているからだろう。それは、日本における「異世界ブーム」にも通ずるものがあるのかもしれない。だがおとぎ話も異世界作品も、実際には作者が存在し、現実の一部が反映されているのは、たしかなことだ。本作は、そんなおとぎ話の問題点を挙げることで、現実世界のわれわれが克服しなければならない問題を暗示しているのである。
参照
※1. https://abcnews.go.com/blogs/entertainment/2014/12/meryl-streep-explains-why-she-took-the-witch-role-in-into-the-woods
■配信情報
『魔法にかけられて2』
ディズニープラスにて独占配信中
出演:ガブリエラ・バルダッチノ、エイミー・アダムス、パトリック・デンプシー、ジェームズ・マーデン、イディナ・メンゼル、マーヤ・ルドルフほか
監督:アダム・シャンクマン
製作総指揮:ジョー・バーン、スニル・パーカッシュ、アダム・シャンクマン
製作:バリー・ジョセフソン、バリー・ソネンフェルド、エイミー・アダムス
音楽:アラン・メンケン
作詞:スティーヴン・シュワルツ
原題:Disenchanted
©2022 Disney Enterprises, Inc.