『チェンソーマン』ループ回を参考映画から読み解く コベニの“ぐちゃ顔”も大活躍
デンジを殺さないと、みんな死んでしまう。悪魔の力によって精神を極限まで追い詰められる4課の面々、『チェンソーマン』第6話「デンジを殺せ」は“ループもの”としての魅力が詰まった回であり、進展が緩やかだからこそ登場人物たちのさらなる内面を深堀することができた。
『チェンソーマン』第6話「デンジを殺せ」予告&先行カット公開 東山コベニが包丁で迫る
テレビ東京系ほかにて放送中のTVアニメ『チェンソーマン』第6話の予告映像と先行カットが公開された。 『少年ジャンプ+』…
前回のラストで、どうやら皆が8階に閉じ込められてしまったことが示唆された。検証の結果、ホテルの8階は階段で降りても登っても8階、部屋の窓の向こうにも部屋があって完全にループしている。特にこの階段の描写とループという点において、思い出されるのがスペイン産のスリラー映画『パラドクス』だ。原作者の藤本タツキも本作をこの回を作る上で参考にしたとSNSで公言している。『パラドクス』は、ヒューマントラストシネマ渋谷を中心に開催されている劇場発信型映画祭「未体験ゾーンの映画たち 2016」で公開された。筆者の記憶が正しければ、相当タチの悪いループ映画だった気がする。
6話のホテル編らへんは、パラドクスという映画を参考にしてやろうとしました。参考にするのはホラー映画というわけではなく、若者が大人から抑圧されているテーマの映画にしました。レゼ編の人狼もそうだったのですが、アニメOPも初めて見た時にビックリボウスキではなく
— 藤本タツキ (@ashitaka_eva) November 15, 2022
少し、この映画について言及したい。『パラドクス』は同じく「未体験ゾーンの映画たち」で公開された『ダークレイン』のイサーク・エスバン監督の長編デビュー作で、そんじょそこらのループ映画とは一線を画している。映画はエスカレーターから降りてくる、シワシワのおばあちゃん花嫁の姿を捉えたかと思いきや、画面は切り替わり、とあるマンションの非常階段で兄弟の犯罪者と、それを追う刑事の姿が映される。兄の方の足を撃ち、ついに一網打尽にできると思いきや謎の爆発音が。それをきっかけに、非常階段のドアは全て開かなくなってしまい、彼らはループに閉じ込められる。一方、全く関係のない一本道のオープンロードでドライブをする4人家族の姿が画面に登場する。子供の兄妹、そしてその母親と彼女の今カレだ。彼らは母の元夫、子供たちの父親の住むホテルで休暇を過ごすために車を走らせている。しかし、ガソリンスタンドで休憩中に母親の今カレが妹にジュースを飲ませ、アレルギーによる喘息の発作が起きてしまう。しかも、あろうことか彼は一つしかない吸引機まで落として割ってしまった。急いで予備の吸引機を取りに行こうとするが、やはり爆発音が聞こえたと同時に、彼らは一本道をループするようになる。
こんなふうに、本作は一つの空間に様々な人が閉じ込められるのではなく、各地において少人数型でループが発生しているというのがユニークな作品。もちろん、なかにはホテルのワンフロアループも存在しており、この非常階段とホテルのループは、構造的にも今回の『チェンソーマン』の永遠の悪魔回の参考にされていることが窺える。何より、この映画を観ると「永遠」への恐怖が高まるため、これらを引き起こす犯人として藤本が「永遠の悪魔」を作り上げたことも、映画に対する一つのアンサーに思える。この両作品を合わせて観ることで、逆にそれぞれの作品が深まるのも、引用を辿ることにおける面白さだ。
そう、永遠の悪魔。テレビ放送リアルタイム視聴の方なら問題ないが、のちの配信(NetflixやAmazon Prime Video)組で字幕をオンにしている人にとっては、第5話の登場シーンの字幕時点ですでに「永遠の悪魔」と名前が出てネタバレになっていたので、原作漫画の時のように「何の悪魔だ?」「“永遠”かー!」というふうに驚けないのは残念だった。なお、今回の終盤、“恐怖”によって増幅・巨大化した悪魔がアキや姫野、デンジを追いかけるシーンも原作の見開きページのインパクトと書き込みの凄さによる圧迫感が印象的だったが、アニメ版は逆に動きながら迫り来る気持ち悪さが際立っていた。