『君だけが知らない』ソ・ユミン×朝倉加葉子対談 韓国と日本、映画製作を巡る状況は?
「触れる」という行為に託した演出意図
《注:この先、映画の重要なターニングポイントについて具体的に触れている箇所があります。ぜひ映画をご覧になってからお読みください》
朝倉:最後に『君だけが知らない』で、私が特に感銘を受けた演出について質問させてください。これはネタバレに触れる箇所だと思うのですが……私がこの映画を最初に観たときに心底驚いたのは、スジンがマンションでよく見かけていた少女が、自分の過去の姿であると分かるシーンの描き方なんです。その場面で、スジンは少女の体に触れます。それまでにも何度か触れてはいるんですが、そこで初めて彼女は自分が触れている相手が自分自身だと気づく。言ってしまえば実在しない、記憶のなかの自分という存在でありながら。そこにはスジンの内面にある「失われてしまった過去に触れたい」という意志のようなものが、映像として見事に表現されていると思ったんです。脚本的にも演出的にも、この映画の飛びぬけて素晴らしいところだと私は思ったのですが、初稿段階からその場面の着想はあったのでしょうか?
ソ・ユミン:そこは確かに初稿には存在せず、いろいろと効果的な見せ方を考えていくうちに思いついた場面でした。スジンはたくさんの心の痛みを抱えていますが、なかでも特に大きな痛みのひとつが、母親を亡くした記憶だと思ったんです。よく見ると、あの少女は白いリボンの髪飾りをつけています。韓国ではお葬式のあった家の女性は、白いリボンの髪飾りをつけるという慣習があり、それを見ると「ああ、最近あの人の家でお葬式があったんだな」と分かるんです。だから、スジンは少女の髪飾りを見て「この子をいたわってあげたい、慰めてあげたい」という感情が湧く。それは自分のなかに同じ痛みを内包しているからなんですが、そのあと、彼女は相手が自分自身であることに気づくわけです。
朝倉:主人公が自分の記憶を具体的に「触る」という描写が、私自身はかなり大胆なアイデアだと思ったのですが、ソ・ユミン監督としてはそこまですごい発想だという意識はなかった?
ソ・ユミン:そうですね。朝倉監督の解釈をうかがって、私自身とても新鮮な気持ちになりました。そんなに大胆な描写をしていたんだ!と(笑)。私としては、相手をいたわる気持ちがすなわち自分自身を慰めることと重なる場面として「触る」という行為を選んだのですが、そんなふうに深く解釈していただけて光栄です。
朝倉:こちらこそ質問できてよかったです! 最後に、日本の観客に向けて、何か伝えたいことはありますか?
ソ・ユミン:『君だけが知らない』という作品に関心を持っていただいて、本当にありがとうございます。私はずっと日本の映画やアニメが大好きでよく見てきたので、自分の作品が日本で公開されることを本当に嬉しく思っています。日本の観客の方たちは鑑賞眼のレベルがとても高いとうかがっているので、そんな皆さんにも『君だけが知らない』を楽しんでもらえたら嬉しいです。サスペンスとしてハラハラしながら楽しんでいただきつつ、一方では別の感情も現れてくるので、そのカタルシスも同時に味わってくれたらと思います。また次の作品でも皆さんとお会いできることを願っています!
朝倉:次回作も楽しみにしています! ちなみに、どのぐらい具体的に進んでいるんですか?
ソ・ユミン:実はすでに撮影は終わっていて、現在はポストプロダクションに入っています。台湾映画『言えない秘密』(2007年)のリメイクで、原作映画をもとに私自身が脚色も担当しました。おそらく来年にはお披露目できると思うのですが、その作品でも日本の皆さんとお会いできればと思っています。もちろん私も朝倉監督の次回作が楽しみです!
朝倉:日本に来られる機会があれば、ぜひまたお話ししたいです!
ソ・ユミン:私もです! 朝倉監督も韓国にいらっしゃるときは、ぜひご連絡ください!
■公開情報
『君だけが知らない』
シネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、UPLINK吉祥寺、kino cinéma立川髙島屋S.C.館ほか全国公開中
出演:ソ・イェジ、キム・ガンウ、パク・サンウク、ソンヒョク
監督・脚本:ソ・ユミン
配給:シンカ
2021年/韓国/ 韓国語/100分/カラー/スコープ/5.1ch/英題:Recalled/字幕翻訳:石井絹香
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公式サイト:https://synca.jp/kimishira/
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