『チェンソーマン』日常シーンのアニオリ描写が光る 作画担当者たちの“発表”にも注目

 戦闘中にデンジの片目が飛び出るなど、アクションシーンにおいてもアニメならではのオリジナル演出が光ったが、第4話においてはその後の日常シーンでさらにその意義を遺憾無く発揮している。完全オリジナルとして描かれたマキマに報告をしに行くシーンでは、彼女の部屋をノックしようとして止まり、鏡に映る自分で容姿を整えるアキが印象的だった。第3話でも、車内でマキマに「デンジは不快なだけで面白くない」と話しながらマキマが「面白いと思うんだけどな」と言った途端「デンジは面白いだけで使えないやつですよ」と言い直したり、第2話で「もう一度抱きたい」と言ったデンジに大きく反応したりと、彼もマキマが好きなのがわかる描写は静かにいくつか描かれてきた。これらは原作漫画にもあるものだったが、同じ静かなトーンでアニオリ演出をはさみ、よりアキの内面を映したのはとても良い。原作漫画を踏まえた上で、より深くキャラクターの心理を捉えることができるようにする。それこそ、原作沿いアニメのオリジナルシーンの持つ意義ではないだろうか。

 その最たる例が早川家の日常シーンだった。漫画の中では分かりきれなかった部屋の構図。アキのモーニングルーティーンを描くことで、彼の人となり、デンジとの生活の進展(トーストを綺麗に食べるようになった成長)を表すだけでなく、その後パワーが介入することで破壊される平穏を、事前に強調する効果もあった。フィルターにお湯を注いだときにできる、コーヒーの泡、歯ブラシに出される歯磨きペースト、ベランダに置いてある椅子の小さな傷、タバコに火をつけたとき風を受けて揺れる煙、洗濯洗剤を容量ピッタリ入れる所作、カレーの野菜を切り刻むシーン。そのどれもが、本来なら別に描かなくてもいいことだ。それをこんなにも丁寧にカット数を重ねて描いている。色調も、早朝を理解させる青っぽいカラーから、徐々に時間が経過すると同意に暖色が増えてくるのが細かい。もともとあった本作の実写的な作画方針を、より印象づける場面となった。

『チェンソーマン』第4話ノンクレジットエンディング / CHAINSAW MAN #4 Ending│TOOBOE 「錠剤」

 パワーは野生的な生活をしていたので、トイレを流さないこともお風呂に入らないことも理解できるが、何より嬉しいのは彼女がデンジに心を開いたことだ。人間も悪魔も嫌いだった彼女が彼と仲良くなれたのは、彼がニャーコを救ったから。デンジがニャーコを救い、パワーのことを庇ったのは、自分とポチタを彼女たちの状況に当てはめたら自分も同じことをしていたかもしれないという、動機への理解と共感があったから。「相手の気持ちを考えてみる」ことを、魔人のパワーは徐々にデンジから学び、デンジはアキから社会性を学ぶ。アキは2人を通してより人間性を柔らかくしていくのだろう。こうして、早川家3名の新たな生活が始まった。

■放送・配信情報
『チェンソーマン』
テレビ東京ほかにて、毎週火曜24:00〜放送
Amazon Prime Videoにて、毎週火曜25:00〜最速配信
各プラットフォームにて、毎週水曜25:00〜見逃し配信
キャスト:戸谷菊之介(デンジ)、井澤詩織(ポチタ)、楠木ともり(マキマ)、坂田将吾(早川アキ)、ファイルーズあい(パワー)、伊瀬茉莉也(姫野)、高橋花林(東山コベニ)、八代拓(荒井ヒロカズ)、津田健次郎(岸辺)、内田真礼(天使の悪魔)、花江夏樹(サメの魔人)、内田夕夜(暴力の魔人)、後藤沙緒里(蜘蛛の悪魔)、大地葉(沢渡アカネ)、濱野大輝(サムライソード)
原作:藤本タツキ(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:中山竜
脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:杉山和隆
アクションディレクター:吉原達矢
チーフ演出:中園真登
悪魔デザイン:押山清高
美術監督:竹田悠介
色彩設計:中野尚美
画面設計:宮原洋平
音楽:牛尾憲輔
オープニング・テーマ:米津玄師「KICK BACK」
挿入歌:マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
エンディング・テーマ:
ano「ちゅ、多様性。」
Eve「ファイトソング」
Aimer「Deep down」
Kanaria「大脳的なランデブー」
syudou「インザバックルーム」
女王蜂「バイオレンス」
ずっと真夜中でいいのに。「残機」
TK from 凛として時雨「first death」
TOOBOE「錠剤」
Vaundy「CHAINSAW BLOOD」
PEOPLE 1「DOGLAND」
マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
アニメーションプロデューサー:瀬下恵介
制作:MAPPA
©藤本タツキ/集英社・MAPPA
公式サイト:https://chainsawman.dog/
公式Twitter:@CHAINSAWMAN_PR

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