『舞いあがれ!』キャラクターの奥行きを広げる細やかな演出と台詞の数々 又吉直樹も登場
『舞いあがれ!』(NHK総合)第12話は行くはずだった遊園地に行けずとも、舞(浅田芭路)が五島で培った“主体性”と“優しさ”を発揮する回になった。
五島からの帰りに飛行機に乗ったことを、父・浩太(高橋克典)に楽しそうに伝えた舞。そんな彼女の様子を嬉しそうに驚いた彼は、自分も飛行機が好きだったことを明かし、遊園地に連れていくことを約束する。しかし、浩太の工場で後輩職人の結城(葵揚)によりミスが発生したため、遊園地の約束は延期になってしまった。
それでも、舞は落ち込むことも腐ることもせずに、ばんば(高畑淳子)の作ってくれたばらもん凧に翼をつけて、貴司(齋藤絢永)を誘い、空にあげる。五島では誘われていた彼女が、自分の力で凧揚げをするだけでなく、自ら誰かを誘うように成長しているのが美しい。もちろん、舞だって飛行機に乗りたかったし、模型飛行機の作り方を教わりたかった。しかし、彼女は父親やばんばなど、家族の大人が失敗する場面をよく目撃している。子供とは、よくそういう場面に無自覚に出くわすものだ。それを、子供ながらに「ああ、大変なんだな」と飲み込んだり、大人になって振り返ってみてようやくその時の大人の苦労がわかったりする。舞はばんばが言っていたように、他者の気持ちを理解できる心が強い。それゆえに、遊園地に行けないことの落胆ぶりを表に出さないどころか、父とそこで一緒にやりたかった模型飛行機作りを、彼を元気づけるために自分だけでやってみようと決意する。
本作は「ものづくりの街」東大阪が舞台となっていて、第3週にしてすでに舞の日常の中にある「ものづくり」が多々登場している。たとえば兄を想ったけん玉、五島のみんなにお別れの時に渡した貝殻風鈴。彼女が第1週で出会ったばらもん凧が、子供の健康を願う意味があるように、舞のものづくりもいつだって“誰かのため”のものなのだ。そして、今回父のために彼女は飛行機を作ろうとする。
浩太は元々飛行機を作る会社にいたものの、工場の跡を継ぐためにその会社を辞めた。しかし、めぐみ(永作博美)は彼が夢を諦めたのではなく、「飛行機の部品を作る」夢に変わったのだと舞に告げる。そういった大人のちょっとした気遣いの言い回しが子供を安心させるが、一方で大人も時々子供からもらう一言に大いに救われることがある。