『一橋桐子の犯罪日記』が映し出す現代人の“寂しさ” 松坂慶子、岩田剛典らの演技に唸る
孤独を抱えるものは、孤独のにおいを敏感に感じ取る。それは寺田も同じ。桐子は久遠と雪菜の協力を経て、寺田からの大金強奪を画策するも失敗に終わる。人が金目当てでしか自分に近づかないことを知っていた彼は、最初から桐子を警戒していたのだ。
「金を貸してる間だけのいっときの関係だけど、何もないよりマシだってな。だからあんたが金目当てで近づいてきたって分かっててもよう、嬉しかったんだよ」
そんな風に淡々と言語化されていく寺田の孤独に胸が締め付けられる。彼は桐子よりも悪人然とした振る舞いが少しだけ上手な寂しがり屋なのだ。
この物語も、私たちの世界も、たくさんの「寂しい」という気持ちでできている。「誰かに見つけてほしい」という願いを誰もが抱いている。その孤独を埋めるための手段が人それぞれ違うだけ。もしかしたら三笠(草刈正雄)からの愛情を利用する薫子(木村多江)にも、ぶっきらぼうだけど桐子に何かと手を貸してくれる久遠にも、そして生前秘密を抱えていた知子にも、堪えがたい寂しさがあったのかもしれない。
個性豊かで癖のある登場人物ばかりだが、全員から孤独のにおいがただよう。実力派の役者陣が映し出すコミカルだけど切なくて、可笑しみのある人物像に興味を惹かれてやまない。
■放送情報
土曜ドラマ『一橋桐子の犯罪日記』
NHK総合にて、毎週土曜22:00~22:49放送(全5話)
出演:松坂慶子、岩田剛典、長澤樹、片桐はいり、宇崎竜童、木村多江、由紀さおり、草刈正雄ほか
原作:原田ひ香『一橋桐子(76)の犯罪日記』
脚本:ふじきみつ彦
音楽:長谷川智樹
制作統括:高橋練(NHKエンタープライズ)、清水拓哉(NHK)
プロデューサー:宇佐川隆史(NHKエンタープライズ)
演出:笠浦友愛、黛りんたろう、加地源一郎
写真提供=NHK