『メイドインアビス』が引き継ぐ手塚治虫のエッセンス なぜ残酷描写が不可欠なのか?

『メイドインアビス』と手塚治虫の関係性

「産まされる身体」と“母”という主題

 劇場版でのボンドルドとの戦いを経た第2期では、「産む身体」を巡る物語が描かれる。「死にゆく身体」を持てるのならば、生命を生み出す営みも描けることになる。「死にゆく身体」を描く第1期を経て、第2期では産むことと母なるものへと手段が変化していく。

 アニメ第2期第1話は、ガンジャ隊の過去から始まるように原作から構成を変更している。産めない身体であるヴエコがナレーションを務める第2期では、彼女の悲劇的な過去から始まり、やはり子どもを産めないことで村から追放されたイルミューイとの出会いと隊の冒険が冒頭に描かれる。物語の導入を務めるのが主人公のリコたちではなく、産めない身体を持つ2人であることによって第2期の主題が示唆される。オープニング映像が、過去のガンジャ隊と現在のリコたちを重ね合わせるように描いているのも印象的だ。

 深界六層にたどり着いたガンジャ隊は「水もどき」に身体を侵食され、次々と瀕死の状態になっていくが、リーダーのワズキャンはイルミューイの願いを利用してこの危機を脱しようとする。

メイドインアビス 烈日の黄金郷

 イルミューイは、子どもを産めない身体であるために村を追放された。それ故に彼女は子どもが埋める「一人前の身体」になることを願っていた。ワズキャンは彼女に願いを叶える卵形の遺物「欲望の揺籃」を与える。歪んだ形でイルミューイの願いは叶えられ、生まれてはすぐに死んでしまう子どもをイルミューイは次々に産まされることになる。どこかの政治家の発言ではないが、まるで「産む機械」である。

 子どもを産む度に巨大化していくイルミューイだが、リコたちが滞在する成れ果て村は、巨大化し続けたイルミューイの体内であることが判明する。イルミューイの最後の子供ファプタは母を解放するために村の連中を根絶やしにすることを目的にしているが、彼女が村に入れないのは、一度生まれた子供が母の胎内に戻れないものだからだろう。

 第2期で母的な存在が大きくクローズアップされたのはなぜだろうか。『メイドインアビス』の物語の発端は、リコが深界で待つ母親に会いにゆきたいという気持ちだった。母はこの物語の起点であるがゆえに、この成れ果て村のエピソードで描かれたものは今後の展開にも大きな意味を持つのかもしれない。

メイドインアビス 烈日の黄金郷

「死にゆく身体」から「生きゆく身体」へ

 前述したが、大塚英志は『アトムの命題』にて、手塚治虫が死にゆく身体を描くに至ったのは、当時戦争という圧倒的に理不尽な現実を目の当たりにしたことが大きいと語っている。焼夷弾が降り注ぐ現実を前に「爆弾を落とされても顔が煤だらけ」になるだけの描写にはとても留まれず、作品世界にも暴力と不条理を導入することになったのだと言う。

 『メイドインアビス』には戦争という現実はなく、作品世界は全て空想のファンタジーである。しかし、本作にも圧倒的な理不尽は入り込んでいる。その理不尽とは「自然の摂理」だ。

 アビスの大穴では、人間世界の法律も人権意識もまるで通用しない。そこは原生生物が跋扈する世界であり、そこに踏み入った人間もまた、大自然の食物連鎖の一部とならざるを得ない。本作がしばしば食事のシーンを描くのも、生きることは他の生命を奪うことであるという自然の摂理に則るからだろう(排泄シーンが描かれるのも実は重要な要素だと筆者は思う)。

メイドインアビス 烈日の黄金郷

 原作者のつくしあきひと氏は、「冒険とは険しきを冒すと書く」と言う。(※1)本来の冒険とは、楽しくてワクワクすることだけではなく、過酷で険しいものであるのが現実だ。その現実から本作は逃げていない。だからこそ、本作の残酷描写は、単なる悪趣味な見せ物の水準を遥かに超える説得力を持つのだ。

 その冒険の理不尽な現実を前にしても、リコは前に進み続ける。死にゆく身体を持ちながら危険に飛び込んでいけるその勇気に命の輝きが宿る。死にゆく身体を描くことから「生きゆく身体」の輝きが浮かび上がってくる。『メイドインアビス』は、日本のマンガ・アニメならではのやり方で生命の輝きを描いているのだ。

参照

※1. https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1508463579

■放送情報
『メイドインアビス 烈日の黄金郷』
AT-X:毎週水曜22:30〜
(リピート放送:毎週金曜10:30〜/毎週火曜16:30〜)
TOKYO MX:毎週水曜25:05〜
BS11:毎週水曜25:00〜
サンテレビ:毎週水曜25:05〜
KBS京都:毎週水曜25:05〜
テレビ愛知:毎週木曜26:35〜
サガテレビ:7毎週日曜25:25〜
Amazon Prime Video:毎週水曜25:00〜
監督:小島正幸
副監督:垪和等
出演:富田美憂、伊瀬茉莉也、井澤詩織、原奈津子、久野美咲、寺崎裕香、平田広明、斎賀みつき、後藤ヒロキ、市ノ瀬加那、斉藤貴美子、竹内良太、水瀬いのり、森川智之
シリーズ構成・脚本:倉田英之
キャラクターデザイン:黄瀬和哉(Production I.G)、黒田結花
デザインリーダー:高倉武史
プロップデザイン:沙倉拓実
美術監督:増山修、関口輝(インスパイアード)
色彩設計:山下宮緒
撮影監督:江間常高(T2 studio)
編集:黒澤雅之
音響監督:山田陽
音響効果:野口透
音楽:Kevin Penkin
音楽プロデューサー:飯島弘光
音楽制作:IRMA LA DOUCE
音楽制作協力:KADOKAWA
アニメーション制作:キネマシトラス
©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会
公式サイト:http://miabyss.com/
公式Twitter:@miabyss_anime

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