『メイドインアビス』第2期も終盤に向けてさらに加速 小島正幸監督の凄みを制作陣に聞く

『メイドインアビス』渾身の第10話を聞く

 つくしあきひとのマンガを原作としたテレビアニメ『メイドインアビス』のシリーズ第2期にあたる『メイドインアビス 烈日の黄金郷』が好評放送中だ。

 本作は、謎の巨大な縦穴「アビス」に挑む少年少女たちのファンタジー作品。深層にいると思われる母親に会いに行くため、危険をおしてアビスに挑む少女リコと、リコを守る少年型のロボットのレグ、そして冒険の最中に出会ったナナチの3人を中心に、過酷ながらもワクワクが止まらない冒険譚が描かれる。その緻密で深遠な世界がアニメーション映像によって、見事に表現されており、国内外のアニメファンから高く評価されている。

 本作のアニメーション制作を担当したのは、キネマシトラス。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』や『盾の勇者の成り上がり』などを手掛ける設立14年目のスタジオだ。

 今回は、『アビス第2期』のオープニング映像の演出・絵コンテを手掛けた小出卓史氏とキャラクターデザイン担当の黒田結花氏、プロデューサーの山下愼平氏に話を聞く機会を得られた。アニメーターとしてのこだわりから、コロナ禍を経て変化したアニメ業界の話まで多岐に渡る話題を前後編でお届けする。

アニメ『メイドインアビス』はいかにして作られたか OP映像&キャラデザの裏側を聞く

つくしあきひとのマンガを原作としたテレビアニメ『メイドインアビス』のシリーズ2期にあたる『メイドインアビス 烈日の黄金郷』が好評…

 後編の今回は、シリーズ後半で小出氏が絵コンテ・演出を手掛けた終盤のエピソードや、小島正幸監督の凄さ、コロナ禍を経てのアニメ業界の変化などについて話を聞いた。(杉本穂高)

伝わりやすい小島正幸監督の絵コンテ

――本シリーズは海外でも人気が高いですが、山下さんはプロデューサーとして海外からの反響をどう受け止めていますか?

山下愼平(以下、山下):商売としては意識しますが、制作する上では海外向けに作ろうとはしていません。それよりも原作をいかに表現するかを大切にしています。アニメはすでに輸出産業であり、売上比率も海外の方が大きくなっていますし、YouTubeのKADOKAWA Anime Channelも登録者の多くが国外の方です。でも、だからといって海外を意識して作れば売れるというものでもないのが難しいところです。実は、第1期放送前に最初のPVを出したらすぐに海外のライセンシーから問い合わせが入ったんです。「我々の求めている冒険ファンタジーだ」とおっしゃっていて、なるほど、こういう作品を求めていたのかと気が付きました。これはKevin Penkinの音楽も大きかったと思います。日本人以外の感性が作品に入っているので、海外の方にも響きやすくなったんじゃないでしょうか。第1期と劇場版が高評価だったのですでに信頼が出来ていたからか、第2期についてもティザービジュアルを出してすぐに海外のライセンシーから購入のオファーをいただきました。

――原作も素晴らしいですが、キネマシトラスさんの作るアニメーションのクオリティあっての人気でもあると思います。その中で当然、小島監督の存在は大きかったと思いますが、アニメーターのお2人から見て小島監督はどんなタイプの監督ですか?

小出卓史(以下、小出):もちろん、小島監督の存在は大きいです。小島監督は絵コンテで色々なことを示す方で、物語を語るための絵コンテを堂々と描きます。僕らからすると、絵コンテを見ればどういうものを作りたいかがすぐ分かるので、それに導かれるままに仕事しているような感じなんです。演出をやってみると、絵コンテの描き方ひとつで伝わらないことが多いことが分かります。そこで伝わらないと、想定していたのと違う映像になってしまうんです。

『メイドインアビス 烈日の黄金郷』第10話

黒田結花(以下、黒田):目指すゴールは伝わりやすいけど、実現するのが難しいというか、なかなか辿り着けないものでもありますよね。

小出:そうですね。でも、マニアックな要素の多いつくし先生の原作にはすごく合っていると思います。

黒田:描くのは大変なんですけど、監督が上手に絵コンテでバランスを取ってくれているので耐えられているという面もあります。

山下:最近のアニメはみんな動かしたがるけど、止めた方が流れとして気持ちいい時もある、小島監督の絵コンテは動かすところは動かして、止めるべきところは止めるのが上手いということですか?

黒田:そうです。すごく見やすいですよね。

『メイドインアビス 烈日の黄金郷』第10話

小出:小島監督も全然動かさないわけじゃなく、日常芝居なども結構やられるんですが、同じ水準の芝居でまとめるのがすごく上手いなと思います。

――小島監督に本作のオファーをしたのはキネマシトラス代表の小笠原宗紀さんですか?

山下:小笠原さんが小島監督と黄瀬和哉さんと何か一緒にやりたいと考えていた矢先に、ちょうど僕がこの企画を持っていったんです。最初の打合せはその4人で行い、そのうちに脚本の倉田英之さんも加わり、美術や設定関連などのスタッフが決まっていきました。

――第1期の頃のインタビューを読むと、黄瀬さんは最初「子供がかわいそうな目に遭うからキャラクターデザインだけしかやらない」とおっしゃっていたとか。(※1)

山下:そう言いながら第1期では第1話の作画監督をやってくださいましたし、劇場版のキャラクターデザインも引き受けてくださいましたよ(笑)。第2期も黄瀬さんの設定はそのままに、新キャラのキャラクターデザインを小島監督ご指名で黒田さんに担当いただきました。

――第2期の制作はいつごろスタートしていたんですか?

山下:劇場版が終わってすぐに第2期の打合せに入ってますから、放送までに2年半かかった計算になります。もう少し制作期間が短い作品もありますが、『メイドインアビス』はそれくらいかかります。

小出:設定を作るだけでも結構時間かかっていますよね。

黒田:成れ果て村の住民も一体ずつ設定がありますからね。

『メイドインアビス 烈日の黄金郷』第9話

山下:成れ果て村の住民200体くらいの設定を作っています。設定だけで普通の作品の何倍ものボリュームで、デザインリーダーの高倉武史さんをはじめとして、原作を補完するすごい量の設定を全部考えてくれています。他にも、ガンジャ隊が背負っている道具は、リコたちとは時代が違うものですから、それらの小物設定も全部作らないといけません。高倉さんや美術の増山修さんなど、各セクションの大御所たちがつくし先生と同じレベルの想像力で考えられるからこの作品は成り立つんだと思います。

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