『よふかしのうた』は“夜”の記憶を呼び覚ます 鮮やかな映像が共感を集める理由
TVアニメ『よふかしのうた』がフジテレビのノイタミナ枠で放送中。本作はCreepy Nutsの楽曲「よふかしのうた」からインスパイアされて完成した、ボーイミーツガールの物語だ。
不登校の少年、コウと吸血鬼のナズナが渡り歩くのは満点の星空をバックにしたポップな夜。しかし明るく楽しいストーリーの間のふとしたカットに、夜がもたらす切なさや、街を吹きぬける湿った風の肌触りを思い浮かべた人も多いのではないか。この、エモーショナルな夜の風景こそ『よふかしのうた』が共感を集める最大の理由と言えるだろう。
街を照らすネオンライトの灯りに、陽気な酔っ払いのサラリーマン、終電間際にイチャつくカップル。すぐ隣にある日常的な「夜」を背景に、本作は私たちが過去に見てきた心に抱く夜の風景をそっと掘り起こす。
観る者の「よふかし」の記憶を手繰り寄せる
筆者は学生時代、大学近くの繁華街で夜勤のアルバイトをしていたことがあった。昼は賑わう学生街が、夜になるとたちまち異世界へと変わっていく様子が好きだった。
会社員、母親、学生……昼間の「役目」から解放された人々は不思議な連帯感を持って、夜を生きる。
日々を生きることに精一杯な私たちは、コウとナズナの出会いのように、自分を非日常へと連れ出してくれる誰かを夜の闇に無意識に探しているのかもしれない。
アルバイトが終わり、始発で帰る頃には、海の底のような静けさを伴った「明日」がすぐそこまで迫っていた。出勤する人と帰宅する人が入り混じった始発の電車の乗客を見ては、夜と朝の境界線はここにあると感じたことを覚えている。
眠れないコウと対照的に早起きなコウの友人、アキラにとって、更けていく夜は朝の始まりでもある。
アキラの生活習慣もあまりに極端ではあるが、ここで私たちは、誰かにとっての夜が、別の誰かにとっての朝でもあることに気づかされる。
ナズナとコウの秘密の夜ふかしに混ぜてもらう形で、コウの学校とは違う新しい一面を知っていくアキラ。修学旅行の夜に思わず誰かと秘密を共有してしまいたくなるような高揚感ーー言葉を選ばずに言えば「深夜テンション」から生まれた微笑ましい共犯関係に、遠い過去の記憶をそっと揺り起こされた。
キラキラとまぶしく、少し切ない。本作はそんな孤独に染み入る、アンバランスな夜の一面を表現している。