ゲスト俳優を輝かせる新井順子P×塚原あゆ子監督 『石子と羽男』『MIU404』などから考察

新井順子×塚原あゆ子作品はゲストを輝かせる

俳優陣の「魅せ方」を活かす余白の演出

石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー

 そんな気骨のあるストーリーをエンタメとして昇華していくのが、塚原監督による演出の妙だ。以前、塚原監督に『MIU404』のタイミングでインタビューした際、「原作のないオリジナルなので、そのなかで一番楽しめることをやっていこう」という言葉を残していた。またキャスト陣への指示も「こちらからは“こうしたらどうかと思ってるけど、動きづらかったら別にどうやってもいい”って言いますね」「やっぱり俳優さんは俳優さんで自分のいい見せ方を知っていますから」とも。

塚原あゆ子が明かす、毎回違う味で作る『MIU404』 テレビドラマの最前線で考えること

新型コロナウイルスの影響で、次々と撮影が中断した4月ドラマ。7月に入って順次、放送がスタートしたものの、作品を企画した当初とはあ…

 俳優陣が持つプロ意識への信頼。それは、若手キャストでも変わらない。いや、むしろこれからが楽しみな若い才能から、何が飛び出すのかを楽しみにしているようにすら感じる。片岡は「カットがかかるたびに監督がこちらに来てくださって、役のイメージやセリフを膨らませるためのアイデアをたくさんくださいました」ときめ細やかにコミュニケーションを取っていたことを明かす。かといって、決して押し付けるようなことはしない。その証拠に、「監督から直接言われたわけではないですけど」と、自主的に座るときの足の閉じ具合など姿勢から役を意識していったというのだ。

 役柄の本質的な部分は伝えながらも、「魅せ方」は俳優陣のチャレンジに寄り添う。さらに、そのゲスト俳優の演技を活かすのは、主演をはじめとするレギュラーキャストの関係性を映す細部に渡るニクい演出だ。『石子と羽男』でいえば、回を重ねるたびに“あうんの呼吸”とも言えるコミカルな掛け合いが加速していく。「今のはアドリブでは?」と思われるような微笑ましいナチュラルな会話が増えていくことで、2人がバディとして積み重ねてきていることを感じることができるのだ。

 そんな“遊び”ともいえる余白のある現場によって生み出される化学反応。それを監督自身が楽しむかのように見つめ、拾い集めていく。その器の大きさと視点の細かさのバランスが、塚原監督ならではのゲスト俳優も、そしてレギュラーも光る見応えのある人間ドラマを作り上げているのだ。

より良い明日へ、ブレることのない願い

 そして新井P×塚原監督作品では、各ドラマの枠を超えて繰り返し取り上げられるテーマがあるのも大きな特徴と言えそうだ。例えば、『アンナチュラル』で鈴木巧が真犯人に刃を突き立てたように、『MIU404』でも妻を失ったガマさん(小日向文世)が自らの手で断罪を決行することの是非を問う。また『MIU404』でも『石子と羽男』でも取り上げられた家出少女たちの実情。社会的なセーフティーネットがあること、そして下心のある大人と手を差し伸べる大人がいるのだと描かれたのも記憶に新しい。

 ゲスト俳優の演じる苦しい役柄に「救われてほしい」「どうにかならないのか」と心を動かされるだけでなく、メインキャストらが「止められなかった」「どうしようもなかった」と、その無力さを痛感するところにリアルを感じる。そして、私たちが生きる現実社会でも、そうした問題は現在進行系であるのだと気づかされることも少なくない。

 だからこそ、私たちは繰り返し思い出してしまうのかもしれない。人が人を裁く難しさ、社会的な弱者が生まれてしまう構造は、すぐには解決されないかもしれない。それでも、繰り返しメッセージを届け続けることで、何かが変わってくれたら……。そんな願いが込められているのではないだろうか。

 ふと立ち止まって世界を見回したときに、ゲスト俳優たちが演じた胸を打つ各シーンが蘇ってくる。彼ら彼女らが、ちゃんと救われる社会になっているのか。そのために自分には何ができるのかと。自分自身が一歩踏み出すことで、心の中で生き続けるキャラクターが笑顔になるような気がする。各話でゲスト俳優たちが主人公となったように、私たちがこの人生の主人公なのだから。そんなエネルギーを貰えるのも新井P×塚原監督作品の魅力だと思う。

■放送情報
金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:有村架純、中村倫也、赤楚衛二、おいでやす小田、さだまさし
脚本:西田征史
演出:塚原あゆ子、山本剛義
プロデュース:新井順子
編成:中西真央、松岡洋太
音楽:得田真裕
主題歌:「人間ごっこ」RADWIMPS(Muzinto Records / EMI)
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/ishikotohaneo_tbs/
公式Twitter:@ishihane_tbs
公式Instagram:@ishiko.to.haneo_tbs

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる