死と暴力と日本愛に溢れた『ブレット・トレイン』 新幹線に乗り込んだようなドライブ感

『ブレット・トレイン』のドライブ感

 ブラッド・ピット主演、デヴィッド・リーチ監督の弾丸エンターテインメント『ブレット・トレイン』がついに日本に着弾した。伊坂幸太郎の『マリアビートル』(角川書店)が原作の本作は、日本が舞台でありながら例によって日本ロケがほとんど行われていない。「それ、大丈夫なの?」と不安に思われる人もいるだろう。でも、ちょっと待ってくれないだろうか。擬似日本を舞台にブラッド・ピットが個性豊かな殺し屋と殺し合う……そう考えたら大層面白そうではないか。おまけに妙な恰好をしたヤクザも乗り込んでくる。そして実際、本作は大層面白い映画だった。それだけでなく、非常にとても愛らしい作品だった。

 本作は死と暴力と日本愛に溢れた純粋なる娯楽作だ。悲しいかな、日本が舞台の死と暴力に溢れたアクション娯楽作はあまり多くない。『マンハント』(2018年)ではジョン・ウーの手によって大阪が見事大惨事と化し、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(2021年)では日本の誇る名城・岸和田城が未曾有の忍者テロによって爆破されたりするが、こういった作品は非常に稀だ。大規模ロケの制約が厳しい日本において、大惨事に発展するような映画の撮影はなかなか難しいのだろう。その点、新幹線という密室が舞台な上に、日本ロケがほとんど行われていない本作はやりたい放題。日本人の営みのすぐ横で殺し屋が全身の穴という穴から血を吹き出して死に、誇張された日本の美しい景色を背景に新幹線が吹っ飛んだりする。

 本作の監督を務めるのは、『ジョン・ウィック』(2015年)でチャド・スタエルスキと共に監督デビューを果たしたデヴィッド・リーチ。スタント・コーディネーター出身である彼は、精緻に構築されたブッ飛びアクションを撮るのが特徴だ。『デッドプール2』(2018年)では人が死にまくる不謹慎で無法極まりないアクションコメディを手掛け、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019年)ではドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムのコテコテなバディものをやりながら、マッスルアクションを撮った。『ブレット・トレイン』はそんなデヴィッド・リーチ監督のおもちゃ箱をひっくり返したような、集大成的映画となっている。

 とにかく愉快に人が死にまくり、粋な音楽と共にスタイリッシュなアクションが炸裂する。個性豊かな殺し屋たちはアホみたいな会話をしながらアホみたいに殺し合い、精緻に張り巡らされた伏線は怒涛の伏線回収によって突き抜けた笑いとカタルシスを誘う。その全てがテンポ良く、まるで新幹線に乗り込んだようなドライブ感を生み出している。映画を観ている間ずっと愉快で心地よく、多幸感が胸に溢れてくる。こう書くと危ないクスリみたいだが、実際それほど本作の生み出すリズムは気持ちいい。要所要所でブラッド・ピットとデヴィッド・リーチ監督による「観客をアホみたいに楽しませてやろう」という気概を感じることができ、そして実際アホみたいに楽しいのだ。

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