『初恋の悪魔』で反復される“カラオケ”と“手紙” 鹿浜たちが考察する第3の殺人

『初恋の悪魔』で反復されるカラオケと手紙

 一方、1人カラオケで石川さゆりの「天城越え」や坂本冬美の「夜桜お七」といった演歌を桐生が歌う姿は、彼氏との別れを決断する心情と重ねられており、とても個人的な行為として描かれる。対して女子高生グループが歌っていたのを聴いたことをきっかけに歌った「わたしの一番かわいいところ」はフォロワーに向けてネットにアップロードされたが「昨日彼氏が殺されました。慰めてください~」とコメントを加えたことで、不謹慎だと批判されてしまう。

 動画を観た鹿浜は「人に見せたい顔と本当の顔は違う」「彼女がどんな気持ちだったかなんてこんな動画じゃ分からない」と言うが、彼女にとっては演歌が本当の顔で「わたしの一番かわいいところ」が人に見せたい自分だったのだろうか? ひょっとしたら本人にもわからないのかもしれない。

 もう一つ繰り返されたのが「手紙」というモチーフだ。坂元裕二作品には手紙を朗読する場面が頻繁に登場する。第2話では、馬淵悠日が兄の朝陽(毎熊克哉)が残した留守電に対して言えなかった気持ちを、スマホ越しに一方的に吐露する場面が、届かなかった「手紙」として表現されていた。第5話で椿静枝(山口果林)が残した日記を鹿浜のために摘木が読み上げる場面も「手紙」と言えるかもしれない。

 そして今回は、元監察医の小洗杏月(田中裕子)の診療所に残された摘木星砂の手紙を馬淵が読む場面が描かれた。手紙を読みながら馬淵は彼女との日々を思い出し感極まる。そんな馬淵を小洗が見守るシーンは、第2話の馬淵と摘木のやりとりと重なり、とても感動的である。

 しかしエンドロールを経て、雪松署長が電話する場面に変わると手紙の印象は真逆のものへと変わる。雪松は“響子”という女性とスマホで話している。だが、彼女の声が聞こえないため、馬淵が亡くなった兄にスマホ越しに語りかける場面と印象が重なる。雪松の口調から、彼が何らかの目的を成し遂げたことが伝わってくるが、その姿はどこか不穏で「届かない手紙」を一方的に送るという行為に内包された暴力性が強く滲み出ていた。

 これまで感動的に描かれた「カラオケ」をみんなで歌うことや届かない「手紙」を一方的に送るという行為が、第7話では暴力的なものとして描かれていた。感動と暴力は紙一重で、簡単に入れ替わってしまうのだ。

■放送情報
『初恋の悪魔』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00~22:54放送
出演:林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑、佐久間由衣、味方良介、安田顕、田中裕子、伊藤英明、毎熊克哉
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生ほか
プロデューサー:次屋尚ほか
チーフプロデューサー:三上絵里子
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/hatsukoinoakuma/
公式Twitter:@hatsukoinoakuma
公式Instagram:@hatsukoinoakuma_ntv

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