『ちむどんどん』食い逃げするほど追い詰められていた矢作 井之脇海が体現する“プライド”

『ちむどんどん』井之脇海が見せるプライド

 『ちむどんどん』(NHK総合)第98話、暢子(黒島結菜)が思いがけず出会ったのは、食い逃げで捕まった矢作(井之脇海)だった。矢作は借金取りに追われ、妻と別れて、日雇いの仕事を転々としているうちに鶴見へやってきた。身の上話を「笑うだろ」と自嘲的に話す矢作に、暢子は「うちの沖縄料理のお店を手伝ってもらえませんか?」と提案する。

 第98話では、学校給食の改革に挑む良子(川口春奈)の取り組みが一歩前進したり、歌子(上白石萌歌)が歌を披露できる場所を探す智(前田公輝)の姿があったりと、沖縄にいる兄妹たちの現状も同時進行で描かれたが、やはり目を引くのは食い逃げするほどに追い詰められていた矢作の姿だ。

 「アッラ・フォンターナ」に勤めていたときの矢作は、暢子に厳しく、やや意地悪にも当たる先輩だったが、料理人としての誇りを身に纏っていた。フォンターナを辞めて独立した矢作は、派手なスーツに身を包み、ガラの悪い雰囲気を醸し出していた。しかし今回暢子の前に現れた矢作の佇まいはいずれでもない。矢作を演じている井之脇のくたびれた顔つきと台詞回しから、これまで生活に困窮してきたことがうかがえる。だが、矢作自身のプライドから来るものなのか、暢子への当たりの強さは変わらない。暢子の提案に「冗談じゃねえ、何でお前の下で。沖縄料理なんて知らねえし」と返したときには、かなり意地の悪い顔つきをしていた。

 「料理なんてこりごりだよ」と吐き捨て、暢子の前から立ち去った矢作だが、矢作が肌身離さず持ち歩いている包丁の存在が、矢作が料理人としての自分を諦めていないことをひしひしと感じさせる。矢作は物語冒頭で包丁を取り上げられたとき、「返してくれ!」と必死になって声をあげていた。「料理なんてこりごりだよ」と吐き捨てながらも、包丁を取り返すようにして手に取る。愛用してきた包丁を手放すそぶりは一切なかった。矢作が再び料理人として腕をふるう伏線に他ならない。

 また矢作の優しい一面も垣間見えた。暢子のお腹の中に子どもがいると知った矢作は、去り際、和彦(宮沢氷魚)に暢子を突き飛ばしたことを謝り、暢子には「おなかの子、大事にしろよ」と声をかける。矢作が和彦の目を見て謝罪する姿には誠実な態度が感じられたし、暢子に声をかけた矢作の声色は優しかった。矢作が暢子にかけた言葉には、妻と別れたという矢作自身が家族を大事にしていたこと、家族に迷惑をかけてしまったことへの後悔などが含まれているのではないだろうか。

 物語の終わり、矢作の妻・佳代(藤間爽子)がフォンターナを訪れていた。佳代がフォンターナを訪れた真意は明かされていないが、去り際の様子を見る限り、矢作を心配しているのではないかと感じる。矢作の料理人としての復活だけでなく、矢作夫妻の今後も気になるところだ。

■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK

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