『初恋の悪魔』YUIの「CHE.R.RY」で共有された奇跡 鹿浜にとって星砂はマイナスの悪魔?

鹿浜にとって星砂はマイナスの悪魔?

 興味深いのは、この不気味な屋敷が、そのまま鹿浜の内面世界を表していたこと。だからこそ鹿浜は、地下牢の暗闇の中で、孤独だった幼少期の自分と対峙することになる。同時にこの屋敷は、鹿浜を外界から守る椿の母胎とでも言うような空間なのだが、彼女の秘められた心は、星砂という第三者によって日記が朗読されることで開放される。

 地下牢から開放された鹿浜たち4人がカラオケでYUIの「CHE.R.RY」を歌う姿がバカバカしくもどこか感動的なのは、「世の中を恨む悪魔」になりそうだった鹿浜と椿が「お互いのことを実は救っていた」いう奇跡を、4人が共有しているように感じるからだろう。

 第4話で鹿浜は「人を好きになるということは傷をつくることだ。好きと痛みに違いは、さほどない。ただ、マイナスとマイナスを掛け合わせた時にプラスになるように傷を分け合えた時に相殺されるだけだ」と語っていた。第5話を観終えた後だと、鹿浜と椿のことを言っているように聞こえる。

 同時に思ったのは、『初恋の悪魔』で坂元裕二が描こうとしていることは、「マイナスとマイナスの掛け算がプラスになる可能性」ではないかということだ。鹿浜を筆頭に自宅捜査会議の4人はそれぞれがマイナスといえる生きづらさを抱えている。マイナスとプラスがぶつかりあえばケンカになるし、マイナスとマイナスを足してもマイナスが膨らんでしまう。しかし、マイナスとマイナスの掛け算ならば、プラスに反転するかもしれない。

 次回から物語は第2章となり、「ヘビ女」と人格が入れ替わった星砂と鹿浜の間に新たな恋愛関係が生まれる予感が漂っている。鹿浜にとって彼女の存在はマイナスの悪魔となるのだろうか?

 なお今回のエンドロールには、出演のなかった田中裕子の名前がクレジットされており、名前の下には(今回登場せず)という注釈が書かれていた。こんなクレジット表記は初めて見たので驚いたが、『Mother』以降の日本テレビ制作の坂元裕二作品に出演し続けている彼女の存在は、ドラマスタッフにとって画面に登場していなくても常に見守っていてほしい「守り神のような存在」なのかもしれない。それはどこか、鹿浜と椿の関係と重なってみえる。

■放送情報
『初恋の悪魔』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00~22:54放送
出演:林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑、佐久間由衣、味方良介、安田顕、田中裕子、伊藤英明、毎熊克哉
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生ほか
プロデューサー:次屋尚ほか
チーフプロデューサー:三上絵里子
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/hatsukoinoakuma/
公式Twitter:@hatsukoinoakuma
公式Instagram:@hatsukoinoakuma_ntv

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