レア・セドゥがスクリーンを独占する 『ストーリー・オブ・マイ・ワイフ』で存分に堪能

レア・セドゥがスクリーンを独占する

 2017年の『心と体と』で第67回ベルリン映画祭金熊賞を受賞し、第90回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされたハンガリーの名匠イルディコー・エニェディ監督の最新作は、ミラン・フストの小説を原作に再び男と女の愛の寓話が描かれる。時は1920年、貨物船の船長ヤコブ(ハイス・ナバー)は最近、どうにも身体の調子が良くない。周囲の船乗りに話せば「そろそろ嫁さんでも貰ったらどうだ」と諭される。ヤコブは陸に上がると「このカフェに最初に入ってきた女性と結婚する」と宣言。そこへ現れたのがレア・セドゥ演じるリジーだ。ヤコブは公約通りすぐさま求婚し、2人は結婚することとなる。

 HBOのTVシリーズ『ユーフォリア』など、サム・レヴィンソン監督とのコラボレーションで知られる撮影監督マルツェル・レーヴのカメラがヨーロッパの美しい港町を捉え、なんともロマンチックなイントロダクションだが、エニェディは寓話の形を借りてこの世の“生きづらさ”を描いてきた監督である。ヤコブとリジーの蜜月には早々に翳りが見え始める。航海で数カ月、家を空ける間、果たしてリジーは貞淑だろうか? 社交好きな彼女との陸の生活はヤコブの性に合わない。それに彼女にはルイ・ガレル演じる他の男の影があるようだ。次第にヤコブは嫉妬で疑心暗鬼に駆られてしまい……。

 観客にとってリジーはヤコブを翻弄する気まぐれな女と映るかも知れない。しかし、これまでもエニェディの映画では中年男性の視点を通じて女性の多面性が語られてきた。第42回カンヌ映画祭でカメラドールを受賞した1989年の伝説的監督デビュー作『私の20世紀』は、双子の姉妹の数奇な運命を描いた幻想奇譚だ。1900年に生まれたドロサ・セグダ演じる双子のリリとドーラはほどなくして生き別れ、やがてリリは貞淑なフェミニズム運動家に、ドーラは奔放な詐欺師となる。2人はそれぞれ同じ中年紳士と交際するが、どちらも幸せにはならない。エニェディは双子という別個のペルソナに見せて、それは1人の女性が持ち得る二面性である。

 これが『心と体と』ではヒロインの現実世界の体と、夢の中で見る鹿という2つのペルソナに分けられる。ハンデを抱えるマーリア(アレクサンドラ・ボルベーイ)は現実世界では他人とコミュニケーションを取ることもままならないが、夢の中では物言わぬ鹿となって、どこかで同じ夢を見る誰かと鼻を寄せ合い、葉を噛み、水を飲んで共生することができる。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる