すでに話題沸騰『石子と羽男』の“ちょい弱”な中村倫也もいい！　セリフ多めでツヤ声も堪能

　また、第3話での、自宅で石田とスマホをスピーカーにして話している時、相手が実際にそこにはいないのだけれど、話しながらついスマホを見てしまうという、目線や表情の細かさも秀逸だった。人が本当にひとりでいる時の自然な表情を、演技で“自然に”見せることは、かなり難易度が高いと思うからだ。

　またメモが見つかって恥ずかしがったくせに、そこでブランディングをやめることなく、第2話では“眉間に深くシワを寄せる”、第3話では“眼鏡をかけてみる”と、アイデアを次々と試し、“天才弁護士”に見せることに固執している。挙句の果てには石田も一緒に指を額に当てるポーズを研究している。なぜ彼がそこまで“天才弁護士”にこだわるのか？　どうやら彼の父親（イッセー尾形）との関係も影響しているようだ。

　もちろん羽根岡はただ弱いキャラなわけではなく、依頼人が何か隠し事をしていることを見抜く鋭さや、調査で地道に動画を見続ける粘り強さもある。“フォトグラフィックメモリー”の特徴を生かして小さな違和感に気づく力も持っている。

　だから私たちは、動揺する弱い彼も、自信を持って事件を解決する彼も楽しめるのだ。ファンにとってなんと贅沢なんだ！　

　そしてもう1点、このドラマでは、中村倫也の演技力と双璧をなす武器、“声”を堪能できる。法律用語をちりばめた早口説明台詞が多い上に、頻繁に石田と掛け合い漫才的なやり取りをするからだ。

　彼の声はかなり特徴がある。声を言葉で表現するのは難易度が高いが、個人的には常に倍音がついて回っているような、ヴェルヴェットのようなツヤのある声だと思う。2019年に放送された『凪のお暇』（TBS系）で演じた、“天性の人たらし”と呼ばれる安良城ゴンの説得力が高かったのは、あの声の持つ色気の要素もかなり大きかった。

　『美食探偵 明智五郎』の明智五郎役の際、舞台か昔のマンガでしか使わないような「やあ」というセリフをごく自然に聞かせていたことには驚いた。あれを可能にしたのも、彼の演技力とともに、声の特徴がやはり大きかったと思う。

　男性としてはやや高めの声だと思うが、舞台で鍛えられているためもあってか、出そうと思えばかなりの声量があり、高低差が激しく、役によっては低い声も出す。長台詞の場合は、抑揚が歌のようで耳心地が素晴らしい（もちろん、抑揚が必要ないようなキャラクターの時は、淡々と話している）。

　ただ声質の特徴は生まれつきの要素が大きいので、本人は褒められてもうれしくない部分かもしれない。だが彼は、自分の声の特徴を隅々までよく把握し、鍛え、役に合わせて高さや抑揚をかなり意識的にコントロールしていると思う。ミュージカルに多数出演していたり、ディズニー映画『アラジン』の主題歌「ホール・ニュー・ワールド」を歌い、その歌声に評価が高いことでも知られるように歌もかなり上手いので、耳が相当よいのだと思う。

　第1話では1カ所、「ん？　今のは金八のモノマネ？」となったシーンがあったが、モノマネの上手さは耳のよさと直結している。本気のモノマネが入ってくるわけではないにしろ、そういう小ネタが毎回入ってくるのかどうかも楽しみだ。

　また、金ボタンのダブルの紺ブレやピンストライプのスーツ、微妙な柄の半袖シャツ、シャツの上襟も下襟も出してジャケットの襟に重ねる着方など、懐かしすぎるバブルの匂い濃厚なファッションにも注目している。実際は高級ブランドのものを使っているようだが、あえて古着チックに見せているのが新鮮だ。

　また、羽根岡はネクタイのノットをシチュエーションに合わせて変えている。なのに、家族での食事会の時にはノーネクタイだった……。というような、彼の心情とリンクしているかのようなファッションのディテールにも注目したい。

　ともあれ、ここ5年ほど知られた中村倫也の一般的なイメージとはまた違う、“ちょい弱”な中村倫也の魅力を、最終回まで存分に堪能したい。

■放送情報
金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます？ー』
TBS系にて、毎週金曜22:00～22:54放送
出演：有村架純、中村倫也、赤楚衛二、おいでやす小田、小関裕太、さだまさし
脚本：西田征史
演出：塚原あゆ子、山本剛義
プロデュース：新井順子
編成：中西真央、松岡洋太
音楽：得田真裕
主題歌：「人間ごっこ」RADWIMPS（Muzinto Records / EMI）
製作：TBSスパークル、TBS
(c)TBS
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