『ちむどんどん』暢子と重子、どちらに共感? 朝ドラの“姑”の描き方に感じる時代の変化

朝ドラの姑の描き方に感じる時代の変化

  “朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』の第16週「御三味(うさんみ)に愛をこめて」は、和彦(宮沢氷魚)の母・重子(鈴木保奈美)が登場。朝ドラに欠かせないヒロインと相手役の母との確執のターンがはじまった。

 和彦の母と父・史彦(戸次重幸)との折り合いが悪いことは、和彦と史彦が沖縄にいた頃に語られていた。どんな人かと思ったら、資産家の娘で、中原中也とオルゴールが好きな、家事はお手伝いさん任せで何もしない(していないように見える)人物。朝食はお気に入りの喫茶店でとる優雅な生活を過ごしている。

 重子は史彦のみならず和彦とも折り合いが悪く、和彦が家を出てから連絡をとり合うこともなかったようだ。それでも和彦を溺愛していて、暢子との結婚を反対する。

 暢子の身辺調査をして、「住む世界が違う」と線引する重子に対して、暢子は「だってうちたちは同じ世界に住んでるんだのに」と必ずわかり合えると諦めない。

 クールな印象のある鈴木保奈美がやや険のある表情を作って暢子に厳しく接すると、なかなかのこわさ。「和彦は渡さない」と言う第79話の凄みは話題になった。ただ、圧倒的なスター俳優・鈴木保奈美という“好印象貯金”があるため、いやな印象にはならない。重子は単なる悪役ではなく、彼女なりの正義をもった人物としてりんと輝いて見える。

 もっとも暢子と和彦もヒロインとその相手役とはいえ、決して聖人とは言えない。ふたりともマイペースで、失敗も多い。未熟な部分がたくさんある。和彦が6年つきあった恋人・愛(飯豊まりえ)と結婚話が持ち上がったとき、暢子とお互いかけがえのない存在であることを自覚して、別れを決断、視聴者を騒然とさせた。だからこそ重子の言い分ももっともだと思える部分もある。

 思えば、鈴木保奈美の出世作『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)で彼女が演じたヒロイン・赤名リカは、かなりマイペースで、上司と不倫しながら主人公(織田裕二)を振り回す人物だった。平成初期を代表する、誰にそしられようと我が道をゆくヒロインを演じた鈴木保奈美が、令和の自由人・暢子の前に立ちはだかるのだから面白い。

 話を本題に戻そう。令和の朝ドラでは、姑(しゅうとめ)が一方的にいやな人物に描かれることはなくなってきた。

 かつて、姑といえば、ヒロインに対する悪役だった。結婚すると姑の洗礼を受ける。代表的なのが昭和のレジェンド『おしん』の嫁いびり。近年では『ごちそうさん』の義姉(キムラ緑子)がかなり凄まじかった。『ちむどんどん』の脚本家・羽原大介の『マッサン』も泉ピン子が迫真の姑演技を見せた。

 ところが『マッサン』を最後に、朝ドラでは嫁姑エピソードはなりを潜めていた。『カムカムエヴリバディ』で久しぶりに嫁に厳しい姑が登場、続けて『ちむどんどん』でもベタな嫁(まだ嫁ではないが)いびりエピソードが描かれた。そこに時代の変化を感じる。

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 『カムカムエヴリバディ』ではヒロインに冷たい姑(YOU)が現れたと思ったら、彼女の厳しさにも理由があるように描かれ、最終的にはいい印象で亡くなっていく。『ちむどんどん』では、暢子と和彦がデリカシーのない言動をして、重子が敬遠するのも無理ないと感じさせる。

 特殊な例としては、『おちょやん』がある。すでに家を出ている姑(板谷由夏)とヒロイン千代(杉咲花)が会い、激しいビンタ合戦を繰り広げるも、結果的に千代は彼女の気持ちを慮るというエピソードだった。

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