『ベター・コール・ソウル』は『ブレイキング・バッド』後の時間軸を描く“未知の領域”に

『ベター・コール・ソウル』“未知の領域”に

 アルバカーキサーガのグランドフィナーレまで残り3エピソードとしながら、この第10話はいったい何が進行しているのか見当がつかない、予想外の面白さだ。この語りの遅さと、しかしより熱い燃焼こそ『ベター・コール・ソウル』の醍醐味である。ジミーはジェフに“ゲーム”を持ちかける。自らが勤務するシナボンの入ったショッピングモールで、高級品を狙った窃盗を企てるのだ。犯行のタイムリミットはわずか3分。ジミーが差し入れたシナボンに警備員が気を取られ、モニターから目を逸らすほんの一時だ。図々しいジェフもさすがに「こんなのイカれてる」と音を上げる計画だが、ジミーは言う「本物のイカれた話をしてやる。50歳の高校の化学教師がいた。ローンの支払いにも困ってたが1年後、札束の山に埋もれてた。これが本物のイカれた話だ」。

 名もなき労働者に身を落としても、ジミーは“滑りのジミー”としての性(さが)もソウル・グッドマンとしての狡猾さも捨て切れなかった。シーズン1の第1話、代わり映えのしない労働を終え、自宅に戻ったジミーはソウル・グッドマン時代に撮影したTVコマーシャルを懐かしそうに見つめる(あの緊迫した局面でCMが録画されたVHSテープを持ち出していたのだ)。シーズン2の第1話、モールのゴミ捨て場に締め出されたジミーは壁に「SG(ソウル・グッドマン)ここにあり」と書き記し、シーズン3の始めでは目の前で逮捕された万引き犯に向かって思わず「弁護士を呼べ!」と叫ぶ。そしてこのシーズン6の第10話では姑息な企みと法の網をくぐるような知識で正体発覚の窮地を脱するのだ。それでも、既に親はおらず兄も亡ければ妻もいない自身の人生を誤魔化すことはできない。甘党で善良な警備員を前に、嘘から真実へと辿り着いてしまう哀れなジミーの姿は彼という人間の本質である。

 事を終えると、ジミーはソウル・グッドマン好みの派手派手しいシャツに指を触れる。過去の栄光にすがり、自分を変えられないジミーのエゴは彼をどこへと追いやるのか。やはり巨大なエゴから最後の奈落へと転落していったウォルター・ホワイト(ブライアン・クランストン)の影を、僕たちは意識せずにはいられないのである。

■配信情報
『ベター・コール・ソウル』シーズン6
Netflixにて配信中
(c)Joe Pugliese/AMC/Sony Pictures Television

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