今年も細田守の夏がやってきた! 『時をかける少女』が描き出す“不可逆な時間”の美しさ

『時をかける少女』が描く“不可逆な時間”

 また、同じく時間というテーマをより深く描写するモチーフとして、「白梅二椿菊図」という絵を見るために千昭と真琴が美術館を訪れるシーンがある。修復中の絵を一目見たかったと話し、大飢饉と戦争の最中に描かれたというその絵を、「今」見ることに執着する千昭。

 絵という芸術が時代を超えて人々の前に飾られること、どんなに過去であっても、確かにその絵を描き、時代を生きた人間がいること。「時間」とは何なのか、という深い思考をもたらすシーンとして、「時間」についての物語を成立させる側面として、絵画のエピソードは不可欠であり見逃せない場面といえよう。

 また、真琴と仲の良い千昭ともうひとりの級友・津田功介が校庭でキャッチボールをするシーンも、平凡なように思えてそこに意味が内包されていると考えたい。緩やかな放物線を描くボールを捉える画面を見ていると、毎秒ごとにミットへ吸い込まれていくボール=すべてのものは時間というレール上で絶え間なく動き続けている、という力学的な考えに至りはしないだろうか。これはそのまま、本作が全編を通して描こうとしている「不可逆な時間」という概念に結びつく。

 ボールが空中で止まったり、群衆がいっぺんに足を止めたりすることは起こりえない。私たちは常に進み、動き、未来へと向かっている。そのことを考えながらエンドロールの直前に描かれたワンカットを観てみると、より深く本作が言わんとしていたことについて考えることができるかもしれない。

 夏という季節は短い。だからこそ美しく、忘れがたいものになる。『時をかける少女』は、そんな「今」観るべき映画だと感じる。ぜひ、ひと夏の出来事で成長し、未来に向かって美しいフォームでボールを投げる少女の姿を見つめてほしいと思う。

■放送情報
『時をかける少女』
日本テレビ系にて、7月1日(金)21:00~22:54放送
声の出演:仲里依紗、石田卓也、板倉光隆、谷村美月、原沙知絵
原作:筒井康隆
脚本:奥寺佐渡子
監督:細田守
(c)「時をかける少女」製作委員会2006

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