鈴木伸之のターンが来た! 女性観アップデートがすごかった『悪女(わる)』の小野忠

『悪女(わる)』MVPは小野忠役の鈴木伸之

 「言葉には出さないが男尊女卑感覚の持ち主」というのが『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』(日本テレビ系)で鈴木伸之が演じた小野忠の初期設定だった。小野はECモールの大手企業で花形の企画開発部に在籍し、出世するためアグレッシブに仕事をするエリート社員。前半ではコロナ入社組の後輩たちの覇気の無さを嘆いたり、やたらと元気だが空回り気味な田中麻里鈴(今田美桜)を「ばか女」「おかっぱ」と呼んで馬鹿にしたりしていたが、後半では女性を対等な存在としてリスペクトし、女性の上司と男性社員との間を取り持つことができるほどに成長。一見、古い体質のマッチョな男のようで、伸びしろがすごかった。時にシリアスで時にコミカルな場面に対応する鈴木の演技は、チューニングが実に的確で、最後まで楽しませてくれた。

悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~

 特に笑いを誘ったのは第4話。小野がリーダーとなり会社の125周年プロジェクトを成功させようとする展開だった。同期の川端(近藤春菜)のことを「女だけど優秀なエンジニアだ」「女捨てて頑張ってるもんな」と失礼極まりない言葉で紹介。コラボを依頼したゲームデザイナーの鬼丸(冨永愛)に対しても「世界的なゲームデザイナーが女性だったとは驚きました」「女性ならではの感性で」とNGワードを連発。鬼丸に「あなたの感覚は古すぎる」「私、フェミニストなんですよ」とばっさり斬られ、企画を降りられてしまった。小野は、これまで自分を立ててくれていた川端にも女性を差別していることを指摘され、否応なしに意識改革を迫られる。「俺たちだって『男らしく』とかさんざん言われてきた」と反発したものの、麻里鈴にも説得されて、自分が間違っていたことを認めた。

 現実にはここで意識をアップデートできない人も多い。劇中で小野が、女性活躍推進のために女性が実力以上に評価されている、結婚や退職という選択肢もある女性に比べて出世するしかない男性の方が不自由だと考えているのは、リアルな男性の心の声かもしれない。鈴木は劇中でも言われたように身長185cmと「体の大きい強そうな男」であり、野球をやっていた体育会系でもあり、劇団EXILEという男所帯に属している。そんなバックボーンも見えるだけに、ハマり役だった。

悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~

 当たり前だが、TVドラマの登場人物は実在する人間ではない。だからこそ、リアルな人間関係と違って、「ダメなやつ」とはっきり言えるのが、ドラマを観る楽しさであり、日常のガス抜きにもなる。鈴木伸之は、そういったツッコミ待ちのキャラを演じるのが上手い。多くの人が彼のそんな魅力に気づいたのは、2017年の『あなたのことはそれほど』(TBS系)ではないだろうか。このドラマで鈴木は、波瑠が演じる主人公・美都とダブル不倫してしまう有島を演じていた。自分に気がある美都を悪びれず笑顔でホテルに連れ込むさま、妻(仲里依紗)の妊娠中、出産後にさんざん浮気しておきながら妻に去られるとすがりつくさまなど、男の身勝手さをこれでもかと表現。その後、再び波瑠と共演した『G線上のあなたと私』(TBS系)でも、中川大志が演じた理人の兄・侑人を演じ、妻子がいながら元カノに会い「放っておけない」などと言い放つ、やっぱり身勝手な男の役だった。身勝手で不実だが、開き直ったときの強さがあり、女性を惹きつけずにはおかない。この手の役をやらせたら、今、彼の右に出る者はいない。

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