『鬼が笑う』MINO Bros.が明かす兄弟ならではの映画づくり “偏見”が生み出す絶妙な配役
嘘のなかに本当を混ぜる
――劇中に出てくる外国人労働者の居る工場は実際に経験されたことが?
和比古:四国にあるライン工場に、僕は2週間入りました。最後の1週間はドタキャンしたんですけど(笑)。そのときに、ちょうど映画に出てくる劉さんみたいな、ちょっと舌足らずで、おっちょこちょいというか、ミスを連発してしまう外国人がいて。それを上司がちょっとバカにしたんです。リーダー的な人がバカにすると、こいつはバカだみたいな感じの空気になっていくのを見て、僕は情けないなと思ったんですよ。でも、その人と話すと、日本語は稚拙なんですけど、人としてすごく面白い方で。しっかりと目的を持って日本に来られている方も多いですし、そういったところを描けたらなと思っていました。
龍一:外国人労働者だけではなくて、日本人の格好悪さっていうのを全部詰め込んだっていう感じですかね。そういったところを誇張しまくるんじゃなくて、さりげなく使ったら本当にそう見えるというか。
和比古:だから、よくリアルって言われるんですけど、ちゃんと観たらリアルではない。
龍一:嘘をどうつくかっていうことじゃないですかね。映画って全部嘘だと思っているんで、そこにちょっと本当を混ぜると、嘘って本当に見えるじゃないですか。
――そういう意味でいうと、半田さん演じる一馬なんて極端に虚構に振り切った人物ですが、周りがリアルな雰囲気を持つと、こういう人物がいるかもしれないと思わせます。
龍一:一馬の行動を、全然意味がわからなくて、共感もできないっていう人も、もちろんいるんだろうなって。だから、一人の人物を描くために、その周りの人たちでこの一人を語るというような作りにしていますね。
観客が同じ苦しみを体感する
――半田さんが、お風呂の中で異様に長く潜水してるシーンが面白いですね。
龍一:前作でも同じことをやったんですけど、あれが面白いと思うのは、息を止める行為って、お客さんも一緒にできるじゃないですか。一緒に止めるからこそ苦しみも同じように体験できるなと思っていて。それを1シーンだけでも体験してほしいなっていうのがあって、あのシーンを作りましたね。
――確かに、『ポセイドン・アドベンチャー』の潜水シーンみたいに、映画を観ながら思わず一緒に息を止めた経験があると忘れないですね。
龍一:彼(和比古)が子どもの時、初めて映画館に行ったのが『千と千尋の神隠し』だったんですけど、橋を渡るシーンがあったんです。
和比古:主人公の千尋が、人間だとバレないように息を止めて橋を渡るっていうシーンで、僕は本当に息を止めていて。それを、後で兄にめちゃめちゃイジられたんです(笑)。
龍一:「おまえ、息止めてたろ!」って(笑)。でも、そうやって共感するから映画に入っていけるんだなっていうことですね。
――編集にも、2人の意見が入るわけですか?
龍一:僕が基本的にやって、(和比古に)観てもらいます。
和比古:「ここ、いらないんじゃない?」って冷徹な判断をしたりとか(笑)。「でも、これ大変だったのに」「わかるけど、切ろう」みたいな。そういうことを話しながらやってますね。
――最近は、映画の規模の大きさに関係なく、監督が脚本も、時には編集も全部一人でやることが増えていますが、その場合、監督1人がバランスを誤ると映画全体が倒壊することになります。監督という立場からすると、身近に冷徹な意見を言う人が居るのは心強いんじゃないですか?
龍一:いや、楽ですね。僕は「面白くない」って言われても、何とも思わないんですよ。だから、面白くないんだったら、何が面白くないのかを解決するっていう。ここはすごいこだわりがあるのにっていうのは、もちろんあるんですけど、どうしてもいらないなっていうのであれば、切るっていう感じですね。
――今後も、こうした作り方で作品を観せてほしいと思うのですが、次回作の予定は?
龍一:次は、僕が1人で撮った映画があるんですが、それは、もうめちゃめちゃ時代劇のエンタメです。『老人ファーム』『鬼が笑う』と社会的な問題を扱った作品が続いてますけど、そればかりをやりたいっていうわけでもないというか。映画はもちろんエンターテイメントだと思うので、社会性とエンタメがフィフティ・フィフティぐらいのものを作りたいと思ってます。
――和比古さんは今後も脚本を? 監督をやろうとは思いませんか。
和比古:僕は、やっぱり脚本になるんでしょうね。やっぱり脚本が得意なので。そこでもう1本、もう1本と積み重ねていきたいなと思ってます。
■公開情報
『鬼が笑う』
6月17日(金)テアトル新宿ほか全国にて劇場公開
出演:半田周平、梅田誠弘、赤間麻里子、坂田聡、大谷麻衣、岡田義徳ほか
監督・編集:三野龍一
脚本:三野和比古
プロデューサー:三野博幸
配給:ラビットハウス
製作:ALPHA Entertainment/KCI
2021年/日本/カラー/2:1/DCP/124分
(c)2021 ALPHA Entertainment LLP「鬼が笑う」