『ピースメイカー』にみる、ジェームズ・ガンのストーリーテリング力 緩急巧みな傑作に
最終話で問題提起された私たちへのメッセージ
クライマックスでバタフライのゴフから真の目的を聞くピースメイカー。化学を無視し、自然災害の原因は人間じゃないと主張する人類。そして存続より利益を優先して、少しの不便が自由を奪うと叫ぶ人間を案じたバタフライは、地球と人類を存続させるために決断を下せない人間に代わって、その脳を乗っ取り、正しい判断をしていくつもりだったのだ。彼らのこの動機は、まさに地球温暖化をはじめとする社会的な問題をはらんだ、政治的で深いものである。ストリーミングサービスひとつをとっても、溢れんばかりの作品数を前に自ら選ぶ力も失せ始めた私たち。情報過多な社会の中で、思考を手放し、支配されることに居心地の良さを感じ始める。そういった同時代性の問題や恐怖を作品のテーマに忍ばせた点もまた、単なるエンタメ作品としての「面白い(Fun)」だけじゃない本シリーズの旨味だ。
そしてこのバタフライの提案に対し、ピースメイカーが一瞬悩むというのも良い演出である。彼は父からの支配に逃れたばかりで、これからどうしたらいいかまださっぱりわからない。断るという決断をとった後も、地球を殺したかもしれないと悩んでいる。しかしそれをアデバヨが「虫に支配されず、自ら変える機会を作ったかも」とフォローするのだ。一貫されたテーマの上で放たれた力強いメッセージには心を動かされるし、そんな彼女もピースメイカーに習い、母親からの支配を自ら断ち切るために会見を開くというラストは爽快だ。
この二人に限らず、このドラマに登場したキャラクターは皆それぞれのことがしっかりと描かれている。愛想のかけらもなかったハーコートは、今や誰よりもチームメンバー想いになり、エコノモスはいつもピースメイカーにいじられていたが、いつも彼が窮地を救っていたし、ヒゲのいじりも最終話でめちゃくちゃ申し訳なかったと思わされる。ビジランテことエイドリアン・チェイス(フレディー・ストローマ)も、見ているこっちが気が狂いそうになるほどうざいのが印象的だが、嫌いになりそうになるギリギリのところで最高のアクションを見せてくれて、一気に好印象を持たせてしまう末恐ろしいキャラだった。鷲のイーグリーはシリーズを通して素晴らしい癒しキャラとして活躍し、ベイビーグルートなど、ガンはやはりこういうキャラクターを本当に可愛く見せることに長けている。
登場人物の成長具合、細かい描写やこだわりを含め、全8話で1話ごとも1時間未満という比較的短い作品で、緩急巧みに“全て”をやりきったと言っても良い『ピースメイカー』。ガンの集大成が全て発揮されたような、スピンオフ作品としてもヒーロードラマとしても傑作である。
■配信情報
『ピースメイカー』(全8話)
U-NEXTにて見放題で独占配信中
プロデューサー:ラース・ウィンテル、ジョン・H・スターク
製作総指揮:マット・ミラー、ピーター・サフラン、ジェームズ・ガン、サイモン・ハット(共同製作者)、ジョン・シナ(共同製作者)
脚本:ジェームズ・ガン
出演:ジョン・シナ、ジェニファー・ホランド、スティーヴ・エイジー、ダニエル・ブルックス、チュクーディ・イウジ、フレディ・ストローマ
日本語吹替版キャスト:大塚明夫、水樹奈々、遠藤純一、斉藤貴美子、上田燿司、前野智昭
Peacemaker and all related characters and elements(c) &TM DC and Warner Bros. Entertainment Inc.