ジェームズ・ガンの原点回帰作 『ザ・スーサイド・スクワッド』で描かれた“体制への反抗”

ジェームズ・ガンが描いた“体制への反抗”

 『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』が大傑作なのにどうやらヒットしていないらしい(引用:大傑作なのに5年前から大幅ダウン 『ザ・スーサイド・スクワッド』の不発が突きつけるもの)。

 まだ観ていない人で、なおかつ、血がドバドバ出る映画に抵抗がない人は、マーベルとDCの違いがわからなくても、最近のヒーロー映画のことを何一つ知らなくても、2016年に発表されたこの映画と同じタイトルの映画(『スーサイド・スクワッド』)を観ていなくてもまったく問題ないので、とりあえず、劇場で本作を観てきてほしい。そのあと、またこの記事を読みに帰ってきてほしい。この記事はすでに鑑賞した人へ向けて書く。

 冒頭、いきなり可愛らしい鳥がボールを投げつけられて死ぬ。過去(2008年から2012年頃)に最低なツイートをしていたとして、2018年に一度ディズニーから解雇、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』3作目の制作を降ろされてしまった監督のジェームズ・ガンという文脈で考えれば、この冒頭はTwitterというプラットフォームへの皮肉だろう。同時に、この冒頭は本作がいかに平和的ではないかを暗示しており、ポストクレジットにおいて、平和の象徴である鳩を胸に掲げているキャラクターのピースメイカー(ジョン・シナ)が不死鳥のごとく蘇ることとも対になっている。本作は鳥が死に、死んだはずの鳥が蘇って幕を下ろす。

 この冒頭をTwitterへの皮肉だと解釈すれば、アマンダ・ウォラー(ヴィオラ・デイヴィス)を責任者とするスーサイド・スクワッドを管理するチームは、さながらソーシャルメディアの負の側面の具現化と言えるだろう。世間的に抹殺してもいいと思われている人物たちを画面越しに眺めながら、生死をボタン一つで決め、ギャンブルのように楽しむ奴らこそ、本作の真の悪人である。恐怖のあまり、泣き叫びながら目の前の敵から逃走した隊員の首を、アマンダは容赦なく吹き飛ばす。海に浮かぶ血塗られたワーナー・ブラザースの文字、これには笑うしかない。ここで本作が「戦争映画」であり、様々なジャンル映画を横断する、制作費200億円をかけた“トロマ映画”であることがわかる(しかも撮影はIMAX対応のRedの8Kカメラだ)。

 ジェームズ・ガン監督のキャリアは映画製作会社トロマ・エンターテインメントから始まった。『ザ・スーサイド・スクワッド』の劇中で、制作費5000万円(めちゃくちゃ低予算)で制作されたトロマ・エンターテインメントの代表作『悪魔の毒々モンスター』(1984年)を引用しているのは、本作の鳴り止まない音楽やストーリーテリング、悪趣味な人体破壊の数々がジェームズ・ガンのルーツを表明するためのものだからだろう。そして、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』がMCUの一作品でありながら、スペースオペラの文脈で語るべき作品だったのと同様に、今回の『ザ・スーサイド・スクワッド』も『特攻大作戦』(1967年)などの60〜70年代「戦争強盗映画」の文脈を意識的にアメコミ映画に持ち込んでおり、さらにアクションを捉えるカメラワークも70年代ジャンル映画的であるため、この規模で制作されている映画にもかかわらず、まるでグラインドハウスで上映しているかのような、いわゆる(あまり使いたくない言葉だが)“B級映画”的な親密さがあり、それゆえ、本作を観ながら同世代の作家としてクンティン・タランティーノの名前も思い浮かべてしまう。ちなみに本作には『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)の編集を務めたフレッド・ラスキンも参加している。

 「戦争強盗映画」として、スーサイド・スクワッドのメンバーが今回担当することになる任務は「スターフィッシュ計画」にアメリカが関与した証拠を消すことである。舞台となる「コルト・マルテーゼ島」は架空の島だが、コミックの『ダークナイト・リターンズ』(1986年)では、ここを舞台に米ソの衝突が起き、アメリカ政府がスーパーマンを投入したことで核戦争が起きたという設定があるため、この任務に60〜70年代米ソ冷戦下のピッグス湾事件からキューバ危機、ベトナム戦争などの史実を重ねていることがわかる。今回のスーサイド・スクワッドのメンバーはそれぞれ親との関係に問題を抱えているため、ドラマは必然的に彼らが親の問題と向き合うことに収斂されていくのだが、そのラストで彼らの目の前に立ちはだかるのはアメリカを親とするピースメイカーと、アメリカの負の歴史を体現するスターロである。親=アメリカと犯罪者たちが対峙する構図は、彼らを犯罪者たらしめている理由が、アメリカ社会の病理と不可分であることを物語っているようである。では、それを踏まえてスターロとの戦いを見てみよう。



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