河瀬直美監督『東京2020オリンピック』連作の興行面における二つの問題点

『東京2020オリンピック』興行の問題点

 今週の動員ランキングは、『トップガン マーヴェリック』が2週連続で1位。土日2日間の動員は47万1261人、興収は7億5741万130円。注目すべきは初週と比べて91.8%という下落率の低さ。この2週目以降の下落率の低さは世界的な現象となっていて、現時点で『トップガン マーヴェリック』は世界興行でも国内興行でも天井が見えないゾーンに入ったと言える。6月6日(月)までの11日間で興収30億を突破。このスピードは『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』(9日間突破)に次いで、2022年に公開されたすべての作品で二番目の早さだ。

 ウィークデイも劇場によっては大入りが続いている『トップガン マーヴェリック』とまったく逆の意味で、今週興行関連で話題を集めたのは、6月3日に公開された河瀬直美総監督による東京2020オリンピックの公式映画『東京2020オリンピック SIDE:A』の不入りに関する報道だ。オープニング3日間の動員は1万2208人、興収は1667万1600円、土日2日間の興収は約1200万円。同時期の『トップガン マーヴェリック』の約1.5%の数字である。

 過去の作品の制作現場における河瀬直美監督の暴力問題、同作の制作に密着したNHKの番組における捏造テロップとエキストラのやらせ疑惑、完成披露試写会場における公開反対デモなど、『東京2020オリンピック SIDE:A』に関しては公開前からネガティブな報道が続いていたが、本コラムはあくまでも興行コラムなので、興行の観点から本作の問題を二つ指摘したい。

 一つは、1965年3月に公開されてヒットを記録した市川崑総監督による『東京オリンピック』と同様に、本作が東宝配給、つまり必然的に全国で大規模公開されたことだ(それでも東宝配給の新作としては最小規模の約200スクリーンだが)。オリンピックの公式映画自体はIOCの規定で決められていることなので、作品の制作自体を問題視しても仕方がない(フィルム時代とデジタル時代で、作品の資料的価値については大きく変化しているはずだが)。河瀬直美監督という人選も、商業映画における実績はともかく、カンヌ映画祭において継続的に寵愛を受けていること(そのこと自体に思うところはあるが)によって国際的に名前が通っている日本人監督の一人であることから、JOCのような組織にとっては選びやすかったのだろう。

 しかし、57年前と同じようにオリンピックのドキュメンタリー映画に観客が押し寄せると思っていたとしたらおめでたすぎるし、諸々の政治的しがらみによって上層部が決めたことを敗戦処理として公開したのであれば、結局その皺寄せがいくのはJOCでも東宝でも河瀬直美監督でもなく、本作を東宝との関係性からどんなにガラガラでも上映しなくてはいけない全国200スクリーンの劇場である。ちなみに200スクリーン、一日4回上映でオープニング3日間の動員を単純計算すると、1回の上映あたりの動員は5人となる。何らかのかたちで、事前に上映規模を縮小する方法はなかったのだろうか。

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