宮沢氷魚登場で物語が動く 『ちむどんどん』が沖縄と戦争を正面から描かない理由を考える

『ちむどんどん』が“沖縄”を描かない理由

 第40話で和彦が取材したミラノの料理人タルデッリ(パンツェッタ・ジローラモ)が取材のお題「最後の晩餐」に選んだ料理は、別れた恋人との思い出の料理だった。それを田良島はつらい思い出と捉えるが、暢子は楽しい思い出と捉える。ここが重要だ。

 暢子は家族との楽しい食事の思い出を大切に生きている。父が亡くなって家族5人で生きることが難しくなったとき、東京の親戚の家に暢子は行く決心をしたが、やはり家族で暮らすことを選んだ。貧しくても家族と一緒にいることが暢子の幸せの原点なのだ。暢子の家族ファーストの感性がおそらく彼女の料理にも生きていくだろう。

 そして、和彦。広い意味での歴史や文化について記事を書くのではなく、もっとマクロな視点で人間ひとりひとりの人生や思い出を聞いて伝えていくことの大事さを今回の取材で学んだことだろう。これが今後の彼のジャーナリストの視点に影響を与えるのではないか。

 暢子の感性と和彦の知性が融合して料理や取材が豊かなものになったそのときこそ、「沖縄」の文化や歴史へのリスペクトが描かれることを期待している。第1話で戦争の歴史を語り継いでいかなくてはならないと語っていたふたりの父は共に既に亡くなっている。父がいない今、次世代の暢子と和彦が知って語っていく番だ。

 「最後の晩餐」の取材を通して、戦争中、人知れず育まれた恋人たちと料理の物語があったことを暢子と和彦は知った。それも日本だけでなくイタリアでも戦争に翻弄された人たちがいたということを。

 おもしろいのは、暢子が料理人の選んだ「最後の晩餐」のメニューを楽しい思い出だったと思いますと言って田良島が「おつかれ」とねぎらう場面の扱いだ。お仕事ものの連ドラだったら、戦争に引き裂かれた恋人たちの真実を掘り起こしたちょっといい話として余韻を残して終わりそうなものだが、そうはならない。朝ドラはしんみりよりも、もっとわちゃわちゃにぎやかなほうが多くの人に好まれるようで、良子(川口春奈)、歌子(上白石萌歌)、賢秀のそれぞれの状況が慌ただしく描かれた。

 この構成は、田良島が暢子や和彦に語った、記事は誰のことを考えて書くかということにもつながる脚本構成だと感じる。沖縄と戦争をストレートに描かない理由もそこにありそうな気がするのだ。

■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK

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