『チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ』の衝撃 なぜ過激な内容に?
彼らだけでなく、本作では『チップとデールの大作戦』にかかわっていたキャラクターたちや、ディズニーが現在権利を持つキャラクターたちの“現在”が、異様に生々しく描かれていく。そのなかでも悲しいのは、2匹とともにレンジャー隊員役を演じていたモンタリー・ジャックが、落ちぶれた孤独な環境のなかで生気を失い、チーズ依存症になっていたこと。彼は違法性のある強烈なチーズを摂取することだけが、人生のなぐさめとなっているのである。
さらに、あるディズニー作品の有名キャラクターが、生活費に困って海外のパクリ作品に出演させられていたり、かつて少年役で絶大な人気を得たキャラクターが、小汚い中年になってショービズ界にしがみついているという、ショッキングな描写もある。きわめつけは、誰も予想できない、日本由来の“とんでもないゲスト”が、劇中の早い段階で登場することだ。それが誰なのかは、未見の観客のために明かさないが、よくこんなネタに許可が降りたものだと、感心せざるを得ない。
これらの表現は、ショービズ界の栄枯盛衰を強烈な皮肉で嘲笑しながら表現しているが、その一方で、忘れられゆく者たちの物語を拾い上げているという点で、優しいまなざしをも感じさせる。それは本作の監督アキヴァ・シェイファー(『俺たちポップスター』)自身が、コメディー番組『サタデー・ナイト・ライブ』出身のコメディアンでもあるからだろう。
『シュガー・ラッシュ:オンライン』(2018年)で、ディズニープリンセスたちが集まって本音を言い合うシーンがあったように、本作でも過去の名作を引用しつつ、その夢を壊しかねない表現をしていることはたしかだろう。しかし、これがかろうじてギャグの範疇にとどまることができているのは、本作の設定そのものが“メタフィジカル”なものであることを明示した上で、描かれる数々のユーモアの一つとして提出されているからではないか。
もう一つ重要なのは、ライアン・レイノルズ主演のアクションコメディー映画『フリー・ガイ』(2021年)や、TVアニメ『ザ・シンプソンズ』の近年のエピソードがそうであるように、ディズニーや、その傘下の製作会社であれば、ディズニーがこれまで吸収してきた会社の権利を利用して、膨大な作品のなかから、望みのキャラクターを登場させることが簡単にできるという点である。作品間の垣根を越えても問題ないと考えている製作者であれば、ディズニーの上層部からお咎めを受けない限り、やり放題なのである。だからこそ、これから作り手は同様の表現をするときに、その取捨選択のセンスを問われることになってゆくはずだ。
とはいえ、よく見ると、本作『チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ』では、自社や関連企業の権利以外のところからも、パロディのネタを持ってきて茶化しているのである。ディズニーの財産となっているキャラクターや、それ以外のネタをも使いながら、スレスレの過激なギャグや、芸人たちの大人のドラマを描いていく……。本作を甘く見て視聴を始めると、突然バケツの水を浴びせられるような体験を味わうことになるだろう。
■配信情報
『チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ』
ディズニープラスにて独占配信中
監督:アキヴァ・シェイファー
プロデューサー:トッド・リーバーマン、デヴィッド・ホバーマン
出演:ジョン・ムレイニー、アンディ・サムバーグ、セス・ローゲン、J・K・シモンズ
原題:Chip & Dale: Rescue Rangers
(c)2022 Disney