『WOWOWオリジナルドラマ ダブル』が描く希望と呪い 夢と戦ったことがあるすべての人へ
「諦めなければ、いつか夢は叶うよ」
小さい頃から、耳にタコができるほど聞いてきた言葉だ。夢を持つことが大事。夢を持っていない大人になったらダメ。学校に入ると、事あるごとに“将来の夢”を語らせられるようになる。
思えばあの頃、大きな夢を持っている子は「夢があっていいわね」と褒められ、現実的な目標を語る子は「希望を持ちなさい」と大人たちに揶揄されていた。いつからだろう。大きな夢を語ると「現実を見ろ」と言われるようになったのは。そして、あの頃に語った“将来の夢”を叶えた人は、どれくらいいるのだろう。
夢を叶える者と、叶えられない者ーー。悔しいことに、この世は2通りの人間に分類される。叶えられなかった場合は、別の道を探すか、ひたすらに夢を追い続けるか。一度諦めないと決めてしまったら、もう後には引けない。そして、いつしか夢は自分自身を締め付ける“呪い”になっていく。
6月4日より放送・配信される『WOWOWオリジナルドラマ ダブル』は、夢が持つ“希望”と“呪い”を描いた物語だ。原作は、第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞を受賞した野田彩子の漫画『ダブル』(ヒーローズ刊)。第1話から、役者の“闇”にスポットを当てている場面が多く、「ここまで見せていいのか?」と正直戸惑った。天才役者・宝田多家良(千葉雄大)と、その活躍を支える鴨島友仁(永山絢斗)による奇妙な共依存関係。圧倒的な才能を持つ多家良だが、自分だけの力では演技をすることができない。友仁が、台詞の読み合わせや役作りに付き合っているからこそ、天才的な表現を魅せることができるのだ。
役を作り上げていく友仁と、それを表現する多家良。第1話、友仁が多家良の代役を務めた時の演出には、思わず鳥肌が立った。2人でひとつの演技を作り上げているため、同じ口調で、同じタイミングで、同じ動きをするのだ。このシーンがあまりにも奇妙で、2人の異常なまでの共依存関係が伝わってきた。ほかにも、多家良が雨に打たれながら劇団のチラシを見つけるシーンなど、こだわり抜かれた演出が本作の魅力のひとつである。
世の中には、光になりたい人と、影で光を支える人がいる。おそらく、友仁は支えたい側の人間なのだろう……と思っていたが、彼自身も「世界一の俳優になりたい」という夢を抱いていた。だとすれば、多家良の夢が叶うほどに自分の夢が遠ざかっていく可能性だってある。それでも、彼の才能を信じて、世に送り出すために全霊を注ぐ理由とは? どこか不気味な関係だからこそ、グイグイ惹きつけられる。