『WOWOWオリジナルドラマ ダブル』が描く希望と呪い 夢と戦ったことがあるすべての人へ
そんな危うげな空気感を表現しているのが、ダブル主演の千葉雄大と永山絢斗だ。
まず、多家良を演じている千葉は、どこかつかめない空気感がいい。序盤、雨に打たれているシーンでは絶望感を抱いているような表情を浮かべていた。しかし、7年後の多家良には、弟のような愛らしさがある。これは、演劇に出逢って、希望を抱いたからなのか。それとも……? 何も考えてなさそうで、実は裏がありそうな奥行きがある芝居。本当の多家良が見えないからこそ、どんどん彼に引き込まれていく。
そして、友仁を演じている永山絢斗。彼が登場した瞬間に、ああ、このドラマはただでは終わらないぞ……とワクワクした。芝居の基礎を教えてあげた多家良が、自分を差し置いてスターダムに駆け上がっていく。友仁は、その姿を間近で見なければならない。しかも、その成功は友仁の影の努力がなければつかめなかった。誰だって、ブラックな気持ちを抱いてしまうだろう。彼は、「多家良の演技は、俺を裏切ることで完成する」と言っていたが、果たしてそれは幸せと言えるのか。
友仁がいなくなっても、多家良には夢を掴んだ功績が残る。しかし、多家良を影で支えてきた友仁は、彼と離れてしまえば何も残らない。夢を諦めると、これまでの過程が無駄になったように感じてしまう人もいるだろう。同じように、友仁は多家良を諦めてしまうのが怖いのかもしれない。こんなに、時間を使ってきたのに。こんなに、彼のために生きてきたのに。
その一方で、多家良も友仁なしでは輝くことができない。だからこそ、奇妙なまでの共依存関係が持続しているのだろう。夢を諦めるには遅すぎる30歳。ここまで来たら、必ず何かを残さなければ……とお互いに執着してしまうのも無理はない。
しかし、本当に諦めなければ夢は叶うのか。夢を叶える者と、叶えられない者。両者の違いは、“諦めなかった”だけなのだろうか。夢を叶えた天才役者と、その夢を支える役者仲間。2人が抱く“夢”に対するイメージは、大きな違いがあるはずだ。
人には、人の苦しみがある。夢に破れて生きる気力がなくなった人もいれば、夢を叶えてプレッシャーに押しつぶされそうになっている人もいる。それでも、私たちは夢を持って生きていかなければならない。幼い頃のように、壮大な夢でなくてもいい。自分自身を縛り付ける“呪い”になるのが夢だとしたら、“希望”になってくれるのもまた夢なのだから。『ダブル』は、夢と戦ったことがあるすべての人に観てもらいたい作品だ。
■放送・配信情報
『WOWOWオリジナルドラマ ダブル』(全10話)
WOWOWプライム、WOWOW 4Kにて、6月4日(土)スタート 毎週土曜22:30〜放送・配信
※第1話無料放送
WOWOWオンデマンドにて、各月の初回放送終了後、同月放送分を一挙配信
※無料トライアル実施中
主演:千葉雄大、永山絢斗、桜庭ななみ、堀井新太、工藤遥、板橋駿谷、前野朋哉、水間ロン、中山忍、橋本じゅん、神野三鈴、津田寛治
原作:野田彩子『ダブル』(ヒーローズ刊)
監督:中川和博
脚本:吉田恵里香
音楽:岩本裕司
プロデューサー:高江洲義貴、石塚紘太
制作協力:シネバザール
製作著作:WOWOW
特設サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/double/