もしも1日だけ違う自分になれたら? 『ローマの休日』が描く、王女とジョーの“特別な日”

『ローマの休日』が描く一日の“特別さ”

 人間同士が同じ時間や体験を共有することは、それぞれに大きな作用をもたらすものだ。王女は初めてタバコを口にし、2人乗りしたベスパでローマの街中を疾走、真実の口に手を差し込んでは子どものようにはしゃぎ、夜になればダンスパーティーで踊る。王女を捜しに来た連中を相手に繰り広げる大乱闘は命懸けのもので、これまたスペシャルな体験の共有になるだろう。そこで特別な感情が芽生えたとしても、何ら不思議ではない。

 自らの意志によってローマでの自由な1日を過ごした王女だが、やはり聡明な“一国の王女”。彼女を待っている者たちが大勢いる。ジョーとは別れなければならない。2人の間には、モンタギュー家の息子・ロミオとキャピュレット家の娘・ジュリエットを隔てる壁よりももっと大きな壁がある。だがこの壁が大きければ大きいほど、ジョーが手にしたネタは世間の話題をさらうだろう。しかし、彼はそれをしない。もちろん、アーニャ=アン王女と一緒になるのも叶わぬこと。なぜジョーは、我欲に走らないのか。それはやはり彼にとっても2人で過ごした1日が、特別な1日だったからである。

 2人だけで体験したはずのことが世に知られれば、この1日は特別なものではなくなる。彼はこの1日が特別なものであり続けることを選ぶのだ。アン王女は「ローマでの思い出は一生忘れられないでしょう」と言う。それはジョーにとっても同じ。彼も一生忘れはしないだろう。そしてそんな一日は、私たちにも不意に訪れる。人生において特別な日というのは、その“特別さ”を自覚するかどうかだ。

■放送情報
『ローマの休日』新吹替版(デジタルリマスター版)
日本テレビ系にて、5月13日(金)21:00~22:54放送 
監督:ウィリアム・ワイラー
脚本:ダルトン・トランボ、ジョン・ダイトン 
音楽:ジョルジュ・オーリック
出演:オードリー・ヘプバーン(早見沙織)、グレゴリー・ペック(浪川大輔)、エディ・アルバート(関智一)、パオロ・カルリーニ(関俊彦)、ハートリー・パワー(茶風林)、マーガレット・ローリングス(すずき紀子)
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