『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』に感じたMCUの光と影

『ドクター・ストレンジMoM』の光と影

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、夢を見ないためマルチバースには存在しない(?)宮川が『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』をプッシュします。

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス

 5月6日の全米公開に先駆け、日本ではゴールデンウィーク真っ最中の5月4日に公開を迎えた『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』。祝日、しかもサービスデーの劇場が多い水曜日だった公開初日に、早くも動員30万人&興行収入4.2億円を記録し、『アベンジャーズ /エンドゲーム』(2019年)、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2022年)に続くマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)史上歴代3位の成績を収めている。すでに作品を鑑賞した人からはさまざまなリアクションが出ているが、その多くが作品に対してポジティブな内容となっている。

 作品に対する評価で特に多いのが、「サム・ライミ映画」として、監督を務めたサム・ライミの作家性や演出などから作品を評価するもの。また、マルチバースにおける複数の“ドクター・ストレンジ”を演じ分けているベネディクト・カンバーバッチら俳優陣を評価する声も多くあがっている。

 この2点において、全く異論はない。これまでのMCU作品史上、もっとも監督の作家性が前面に出ており、『死霊のはらわた』(1981年)や『スペル』(2009年)などライミ監督が過去に手がけてきた作品を彷彿とさせるようなホラー描写や“B級映画”的な展開が、MCUに新たな風を吹き込んでいるのは確かだ(トビー・マグワイア版『スパイダーマン』3部作を思わせる演出も!)。第94回アカデミー賞で主演男優賞にノミネートされた『パワー・オブ・ザ・ドッグ』を経て、ベネディクト・カンバーバッチが前作以上に複雑となった“ドクター・ストレンジ”というキャラクターを円熟味のある演技で完全に自分のものにしているのも、作品の評価につながる大きなポイントだろう。

 そんなサム・ライミの演出とカンバーバッチの演技がハマっているようにも見えて相反しているようにも見えるシーンが、物語後半に登場する。ネタバレになるので詳細には触れないが、きわめてシリアスなこの“バトルシーン”における“ある演出”が、あまりにもぶっ飛んでいる。筆者も鑑賞中に思わず声を出して笑ってしまうほどだった。終盤は、そんな突拍子もない展開がてんこ盛り。ホラー映画的には正攻法な展開だが、まさかこれをMCU映画でやるとは……。サム・ライミ恐るべし、である。

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