1回だけでは消化しきれない? サム・ライミ映画となった『ドクター・ストレンジMoM』

ライミ映画『ドクター・ストレンジMoM』

※本稿はネタバレを避けたレビューとなります。

 『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(以下、『ドクター・ストレンジMoM』)が公開されました。完成披露試写会を観終わった後、まわりにいた映画ライターの方々のほとんどが「面白かった」と言った後、「いやあ、サム・ライミの映画でしたね!」と続けました。僕も全く同じ感想で、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の1本としても傑作ですが、ライミ監督らしい映画に仕上がっていた印象があります。

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス

 ご存じのようにライミ監督はトビー・マグワイア主演の『スパイダーマン』3部作の監督です。また、コミック原作ではないですが『ダークマン』というダークヒーロー映画の傑作も手掛けています。したがってヒーロー映画が得意な監督だと思います。今回、予告編でも紹介されている一つ目の怪物とのバトルシーン。ここにドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)が駆けつけるシーンのかっこいいこと。まさにヒーロー映画の醍醐味であり、スーパーヒーロー映画の傑作『スーパーマン』(1978年)へのオマージュすら感じました。また、この怪物が触手を使ってビルをよじ登ったり、ストレンジの体を押さえつけるところはライミ監督の『スパイダーマン2』(2004年)におけるドック・オクとスパイダーマンの戦いを彷彿させます。というわけでヒーロー映画の名手としての冴えも当然あるわけですが、僕らが感じた“サム・ライミらしさ”というのは、彼の出世作であるホラー『死霊のはらわた』(1981年)に本作が似ていることなのです。

 『死霊のはらわた』は“死者の書”という封印されていた魔書が様々な怪異を引き起こすというものです。今回の『ドクター・ストレンジMoM』も禁断の魔書にヒーローたちが振り回される物語です。マーベル・シネマティック・ユニバースと『死霊のはらわた』の世界観がもし一緒だったらこういう話になっていたのではないかと思わせる展開でした。これに絡んで、サム・ライミ映画には欠かせない“あの人”も出てくるので、どこで登場するかお楽しみに! なお映画『スパイダーマン2』の中にドクター・ストレンジという名前が出てくるほどですから、実はサム・ライミ監督はこのストレンジというキャラが好きなのかもしれません。

 本作は上映時間2時間強という、最近のMCUの中では短めですが、ドラマが濃くアクションもいっぱいで大変見応えある作品となっています。逆にこれだけの内容を2時間に詰め込んだので、大変テンポがいいです。主人公がドクター・ストレンジなので、当然魔法バトル作品となります。

 感心したのは、今までのMCUで見せてくれたアストラル体(幽体離脱ですね)、分身術、ミラー次元、リングを使ったポータル技を使わず、新しい魔法技をたくさん見せてくれることなのです。ドクター・ストレンジがMCUに登場するのは今回で5作目。既視感のある魔法ではなく楽しませてくれるサービス精神の素晴らしさ! それに関しては、もう一人の本作の主役であるワンダにも同様のことが言えます。

 『ドクター・ストレンジMoM』は『ドクター・ストレンジ』の続編であると同時に、MCU×ディズニープラスの『ワンダヴィジョン』の続編的な意味合いもあります。あの『ワンダヴィジョン』でワンダは自分の中にスカーレット・ウィッチという魔女がいることを知ります。『ドクター・ストレンジMoM』ではそのスカーレット・ウィッチのパートが重要な役割を果たすのです。正直『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』での3人のスパイダーマン共演で相当驚いたので、これを超える衝撃はもうないだろうと思っていたのですが、甘かった(笑)。とんでもないサプライズ出演が多々あり、「ええええ!!!!」と(心の中で)叫んでしまうほどの新キャストが紹介されました。

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