SF作品『ロシアン・ドール』の圧倒的な“人間ドラマ” 複雑なキャラクター設定が魅力に

『ロシアン・ドール』の圧倒的な人間ドラマ

 そして、本シリーズの演出や脚本を担当したスタッフが、ほとんど女性であるという点も重要だ。基本的には女性の登場人物の視点から描かれる物語や映像表現は、彼女たちの実感がこもっていることでステレオタイプから脱し、“女性”という固定観念から、むしろ離れた自由な作風を獲得していると感じられるのだ。

 さて、第1シーズンで繰り返された、誕生日を起点にした死のループ。第2シーズンでは世界のスケールが大幅に広がり、世代を超えた一族の歴史の旅が描かれ、第1シーズンにも登場した、ナディアが持っているクルーガーランド金貨のゆかりと、ナチスが戦利品を運んだという都市伝説「黄金列車」の謎に迫っていく。そして地理的にも、アメリカからハンガリーへと舞台の広がりを見せる。

ロシアン・ドール:謎のタイムループ
Courtesy of Netflix (c)2022

 嬉しいのは、第1シーズンで存在感を見せたアジア系アメリカ人の俳優グレタ・リーが演じるナターシャの友人マキシンが、ナターシャのハンガリーへの旅に同行するところ。ナターシャとは、また別の意味でぶっ飛んでる彼女の活躍も、第2シーズンの見どころだ。

ロシアン・ドール:謎のタイムループ
Vanessa Clifton/Netflix (c)2022

 さらに、親代わりとしてナディアの面倒を見てくれているルース(エリザベス・アシュリー)にもフォーカス。彼女の若い時代を演じるアニー・マーフィーの80年代ファッションや、キメキメの髪型に、「うおっ、メラニー・グリフィスかと思ったよ!」と驚く、時を越えてきたナディアの反応が面白い。

ロシアン・ドール:謎のタイムループ
Vanessa Clifton/Netflix (c)2022

 幼い頃のナターシャに深い傷跡をつけた母親レノーラ(クロエ・セヴィニー)の物語も、今回深掘りされている。第1シーズンでは回想シーンに限られ、豪華ゲストとしての扱いだったが、第2シーズンでは視聴者の期待に応えて、重要な登場人物として多くのエピソードで活躍。ワーキングガール風のルースとは異なる、彼女の80年代ヒッピー風なストリートファッションも楽しめる。

 ナターシャ・リオンのパーソナリティに迫った第1シーズン、そして彼女のルーツまで拡張していく第2シーズンと、まさに一人の女性の存在を描き尽くそうとする本シリーズは、時間を題材としたSF作品ながら、圧倒的な「人間ドラマ」が展開する作品である。

ロシアン・ドール:謎のタイムループ
Courtesy of Netflix (c)2022

 本シリーズをまだ鑑賞していない視聴者は、とにかく早く観て、ナターシャ・リオン本人が投影された主人公の魅力や、その横や裏で彼女を支える女性たちによってかたちづくられる、深い人間ドラマを楽しんでほしい。

■配信情報
『ロシアン・ドール:謎のタイムループ』
Netflixにて配信中
出演:ナターシャ・リオン
ショーランナー・製作総指揮:ナターシャ・リオン
製作総指揮:アレックス・ブオノ、エイミー・ポーラー 、レスリー・ヘッドランド、リリー・バーンズ、トニー・ヘルナンデス、デイヴ・ベッキー、ケイト・アレンド、レジーナ・コラード、アリソン・ シルヴァーマン
Courtesy of Netflix (c)2022

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