『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』に詰まった継承と革新 

『映画クレヨンしんちゃん』の継承と革新

「『映画クレヨンしんちゃん』は、日本屈指の社会派作品揃いである」

 そう断言したら、普段アニメを観ない方にはもしかしたらキョトンとした表情をされるかもしれない。『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』など、原恵一が監督を務めた映画ファンにもおなじみの作品があるとはいえ、下品なお笑いでかつては大人に議論され、女性に弱い自由な5歳児のどこに、社会派作品の要素があるというのだろうか。そのような声も聞こえてきそうだ。

 しかし、優れたコメディ映画というのは、同時に社会に対する鋭い批評も内包している。それは自由度の高い『クレヨンしんちゃん』の映画も同じなのだ。今回は『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』が描いた、社会や歴史に対する、鋭い批評眼について語っていきたい。

 『もののけニンジャ珍風伝』は『映画クレヨンしんちゃん』シリーズの30周年となる記念すべき作品だ。野原一家は、突如現れた屁祖隠ちよめと、その息子の珍蔵と交流を持つ。しかし、実はちよめは忍びの里から逃げ出してきたくノ一だった。追っ手に珍蔵と勘違いされ、さらわれたしんのすけは、囚われたちよめと共に、忍びの里での大きな陰謀に巻き込まれていく……というストーリーだ。

 監督を務めた橋本昌和は『映画クレヨンしんちゃん』シリーズでは『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 〜失われたひろし〜』以来、5作目の監督作となる。『映画クレヨンしんちゃん』に長く携わっており、シリーズの歴史への敬意が感じられる点が特徴的だ。

 『映画クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ』では、過去全作の『映画クレヨンしんちゃん』の象徴的なキャラクターを登場させる試みがあった。また、近年では世相的に出しづらい『クレヨンしんちゃん』を象徴するキャラクターでもある、“オカマ”も登場させている。

 今作もその過去作への思いが随所に感じられた。例を挙げると、序盤の敵である、辺賀久才蔵や周囲の忍者との対決シーンだ。「屁が臭いぞう」という、いかにも『クレヨンしんちゃん』に登場する敵キャラクターらしい名前に加えて、さつまいもを食べてオナラの匂いで戦うというコミカルな様子や、あるいは屁祖隠ちよめが周囲の忍者と戦う殺陣の作画技術からは、今でも時代劇アクションとして人気の高い『映画 クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』の要素を感じた。

 また中盤ではひろしがしんのすけを追って、靴の匂いで戦いながら走るというお馴染みとも言えるシーンがあるが、その回想シーンも含めて『オトナ帝国の逆襲』を連想した。もちろん、筆者が気が付いていないオマージュなども多く描かれているはずであり、他にも例はあがるかもしれない。

 上記のタイトルは言わずと知れた、シリーズを代表する作品であり、まさに“歴史”を体現する存在と言っても過言ではないだろう。橋本監督は劇場版30周年という、1つの区切りに対して、象徴的な作品の歴史を思わせる描写を入れたことで、その歴史への敬意を表現したのではないだろうか。

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