『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』に詰まった継承と革新 

『映画クレヨンしんちゃん』の継承と革新

 そして今作のテーマの1つは“継承と革新”だろう。作中でも「くノ一は長老になれない」などといった、旧態依然とした忍びの里の掟が明かされている。他にも里のためにモノノケの術を使い、その身をゴリラに変えてまで滅私奉公している、珍蔵のお父さんの姿からも、過去の歴史や掟に縛られている人々の姿が感じられる。本作はそのような過去の因習から連なる思い込みを打破し、新しい時代や考え方を迎え入れる社会の変化の重要性を描いている。

 本来の目的は、里の掟にあるように「金の玉を守り、地球や里を守ること」であるはずだ。しかし、いつの間にか目的がすり替わり、世界や社会を守るために作った金を削り、売り捌き、個人の私服を肥やすことを目的としてしまう。しかも、そのためにモノノケの術を使える重要な人物を酷使し、次世代にまでその役目を押し付けようとする。

 これは見方を変えれば、今の日本各地で問題視されている、さまざまな搾取の問題や、目先の利益にとらわれて、大切なことを見誤り、大きな事件・事故を引き起こしてしまう問題にもつながっているように思う。そして、過去の数々の功績や名作に胡座をかき、精進することを怠ると、それによって映画シリーズがダメになってしまうという『映画クレヨンしんちゃん』への自己批評にも通じてくる。

 だからこそ、今作は歴史や過去に敬意を払いながらも、古い因習には変化をもたらすべきだ、というメッセージを描いたのではないだろうか。その結果として、1つ挙がるのが来年の予告だ。ここではネタバレになるために、詳しく説明はしないが、来年の映画では大きな変化を迎えることが発表されている。その変化もまた、自由でのびのびとしたアニメ表現を披露してきた、このシリーズにふさわしいものではないだろうか。

 そして、それはそのまんま『クレヨンしんちゃん』の映画シリーズのみならず、それを受容する観客もまた、その変化を受け入れる度量が求められるのではないだろうか。

 もちろん、今回語ったような内容は、あくまでも筆者の印象にすぎない。しかしこのような読み取り方が可能なほど『クレヨンしんちゃん』の映画作品というのは、社会に対する鋭い批評を含んでいるのだ。そして、それは今作が特別なわけではない。

 しんちゃん映画を、ただのゲラゲラお笑い作品と侮るなかれ。優れたコメディであると同時に、屈指の社会派作品たちでもあるのだ。

■公開情報
『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』
全国公開中
原作:臼井儀人
監督:橋本昌和
脚本:うえのきみこ、橋本昌和
声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ
ゲスト声優:川栄李奈、ハライチ
配給:東宝
製作:シンエイ動画・テレビ朝日・ADKエモーションズ・双葉社
(c)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK2022

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