ブルース・ウェインの完璧な成長物語 『ザ・バットマン』は野心的かつストイックな作品に

『ザ・バットマン』は野心的かつストイック

 そしてもう一つは、ブルース・ウェインの成長物語として完璧である点だ。過去の『バットマン』映画では――ものすごく乱暴な表現をすると――マスクを被ったヒーロー=バットマンとしての人格や狂気が優先され、マスクの下の人間=ブルース・ウェインという人物は「変わり者の超金持ち」で片づけられていたように思う。対して本作では、明日なき暴走を繰り広げる鬱屈した青年ブルース・ウェインが、現実の壁にブチあたり、それでも再起して、人間的に一皮剥ける姿をじっくり描いていく。この成長の過程は、どこか青春映画的な雰囲気すら漂う。特に後半、自分の過去の言動と向き合う展開は、誰しも共感できる「気まずさ」があった。だよね、正解だと思ってやっていたことを、他人もやっているのを見て間違いだと気が付いたときって、メチャクチャ気まずいし、「あっ、やめよう」と思うよね……。中学校のときにウォレットチェーンをつけていた同級生たちが、あるタイミングでみんな示し合わせたかのようにチェーンを外していたのを思い出しました。

THE BATMAN-ザ・バットマン-

 そんなわけで、『バットマン』というキャラクターと、大金を突っ込んで、こうした実験的な作品を作っていく姿勢は大いに歓迎したい(たぶんDC的にド派手方面は『アクアマン』が担うのだろうし)。野心的かつストイック、そして劇中の大半が暗闇で進む本作は、映画館という日常と離れた場所で観るのがよく似合う。コロナでなかなか厳しい状況にあるが、劇場での観賞をオススメしたい1本だ。

■公開情報
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』
全国公開中
監督:マット・リーヴス
脚本:マット・リーヴス、マットソン・トムリン
出演:ロバート・パティンソン、コリン・ファレル、ポール・ダノ、ゾーイ・クラヴィッツ、ジョン・タトゥーロ、アンディ・サーキス、ジェフリー・ライトほか
配給:ワーナー・ブラザース
(c)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c)DC
公式サイト:thebatman-movie.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる