神木隆之介による等身大の若者像に共感 『妻、小学生になる。』友利役での飾らぬ姿
このところ、ごく平凡な、等身大の若者を演じる機会が続いている俳優・神木隆之介。現在はドラマ『妻、小学生になる。』(TBS系)にてモラトリアム期にある青年を演じているところであり、劇場に行けば映画『ノイズ』でとある重責に苦しむ若者を演じる彼の姿を目にすることができる。神木が体現する等身大の若者像に、共感せずにはいられぬ方も多いのではないだろうか。
『妻、小学生になる。』は、とある一家の妻であり母である一人の女性・新島貴恵(石田ゆり子)が交通事故で他界し、その10年後に小学生の少女・白石万理華(毎田暖乃)に転生して還ってくるというファンタジックなホームドラマ。突飛な設定の作品ではあるものの、主演の堤真一をはじめとする俳優たちの好演が功を奏し、心温まるドラマに仕上がっている。
そんな本作で神木が演じているのは貴恵の弟・友利で、本格的に登場したのは第2話から。この配役は事前に発表されておらず、“主役級”の役どころを務めることがほとんどの神木がこのような登場の仕方をするのに対し、方々から驚きの声が上がった。いわば「サプライズ」的な出演となったのだ。しかしながら彼の登場は、単なる驚きにとどまらない。本作における友利の役割は大きいのだ。これを演じるのは神木でなければならなかったのだと、その思いは回を重ねるごとに強くなるばかりである。
正直なことを告白すると、友利がガッツリ登場するようになってからも、彼に扮しているのが神木なのだと筆者は気がつかなかった。いち視聴者としては恥ずかしい気もするのだが、これは俳優にとっては素晴らしいことだろう。第1話の段階ですでに強固な作品世界ができあがっていたというのも大きいのだろうが、ここに神木は柔軟に溶け込んでみせた。ただ友利という青年として、この世界に存在していたのだ。だが今回のような登場の仕方は、ある種の危険性を伴うものだとも思う。なぜならば、多くの視聴者にとって神木の登場は「サプライズ」であり、ともすると神木自身の持つ存在感や個性というものの主張の方が大きくなりかねない。そうなれば、せっかく第1話で築かれた作品世界を壊してしまうことにもなるはず。俳優の名声が現前し、劇中のキャラクターが成立しなくなるわけだ。
しかし、“友利=神木隆之介”に異論を唱える方は少ないのではないだろうか。かつて友利は漫画家として賞を獲るもデビューを果たせず、現在はその日暮らしといえる生活を送っている。大好きだった姉を突然亡くしてからというもの、大きな喪失感を抱えたまま日々をやり過ごしてきたのだ。神木の“明と暗”を自在に使い分けた演技はこの人物のバックグラウンドを垣間見せ、少々だらしない人間ではあるものの、放ってはおけないキャラクターに仕上げている。大切な人を突然失うことは誰にでも起こり得る。そうした際、彼のように人生が停滞する状態に陥ってしまうことは想像に難くないだろう。これが視聴者の共感を呼ぶのである。ちなみに“共感”という点に関して、『コントが始まる』(2021年/日本テレビ系)で神木が演じた瞬太役を思い出すのは筆者だけだろうか。