『アンチャーテッド』が変化を進める原動力に? ゲーム原作映画の展望を考える
このように時代の洗練から切り離されたかに見える作品のテイストは、映画への素朴な憧れが投影されたゲームを、さらに映画にするという、ある意味異様な取り組みがもたらしたものであるように思える。その「非映画的」とも、逆説的に「映画的」ともいえる映像体験が、観客に新鮮な興奮を提供することになったと思えるのだ。同時に、コロナ禍によって世界中で渡航や外出が制限される、いまの環境下において、世界を巡って冒険する本作の題材は、喜ばれる要因となっているはずである。
非現実的といえるアクションの数々に、かろうじてリアリティをもたらしていたのは、マーベル・スタジオの『スパイダーマン』シリーズで、鍛え上げた肉体と身のこなしを披露していたトム・ホランドがネイトに配役されたという点である。もともとゲームにおいて、このネイトというキャラクターは、あらゆる場所にしがみつくことのできるロッククライミング能力を持っていることは、シリーズのプレイヤーなら誰しも知っていることだ。映画のようなリアルなビジュアルで世界が表現されるからこそ、ネイトの異様なほどの握力は不自然だと指摘されることもあったが、筋力と身軽さを併せ持つトム・ホランドが演じるネイトは、荒唐無稽なシーンの数々に、ある程度の説得力を与えていたといえるのではないだろうか。
過去のハリウッド娯楽作品を下敷きとしたゲームシリーズのキャラクター像は、基になる作品の保守性を引きずる部分もあった。だが本作は、第4作『アンチャーテッド 地図なき冒険の始まり』の、若かりし時代のネイトをホランドに演じさせることで、往年の映画そのものになってしまうことをも回避しているといえよう。また、『007』シリーズの主人公ジェームズ・ボンドの若い頃を描く企画を売り込んでいたというホランドにとっても、『アンチャーテッド』シリーズは、ぴったりな題材だったはずである。
映画が完成するまでに、監督やキャストの変更など、紆余曲折を経て完成にこぎつけたという本作だが、様々な条件が作品にとって有利な方向に転がったことで、多くの観客に支持される内容に仕上がったといえそうだ。この成功によって、本作の続編企画が通りやすくなったのはもちろんだが、新事業「PlayStation Productions」の今後の見通しも明るくなったはずだ。2021年から撮影が開始されている『The Last of Us』以降、ゲーム原作の映像作品が続々登場する可能性がある。
そうなれば映画とゲームの関係は、より近しいものとなり、さらに相互に影響を与え合うことになるだろう。すでに配信業界では、Netflix『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』(2019年)をはじめ、ゲームのように視聴者個人の意志がストーリーに介入できるインタラクティブな映像作品が、いくつもリリースされているのである。映画とゲーム、両者の境目が曖昧になり、互いを求めつつある時代に、本作『アンチャーテッド』は、その変化を進める原動力になったといえるだろう。
■公開情報
『アンチャーテッド』
全国公開中
監督:ルーベン・フライシャー
脚本:アート・マーカム、マット・ハロウェイ、レイフ・ジャドキンス
原作:PlayStation ゲーム『アンチャーテッド』シリーズ by ノーティードッグ
出演:トム・ホランド、マーク・ウォールバーグ、アントニオ・バンデラス、ソフィア・アリ、タティ・ガブリエル
日本語吹替版声優:榎木淳弥、森川智之、大塚明夫、 雨宮天、白石涼子、武内駿輔
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:https://www.uncharted-movie.jp/
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