『ボバ・フェット』が引き継いだ、ジョージ・ルーカスの“新たな映画を目指す”という意志

『ボバ・フェット』が引き継ぐルーカスの意志

 『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』は公開当時、旧3部作の熱狂的なファンの一部から、強い反発があった作品として知られている。だが、「正史」といえる9つのエピソードが出揃い、新3部作のテーマの重要性が見直されることで、次第に正当な評価が得られるようになってきている。しかし当時、激しい非難や嘲笑にさらされたことで、いまだに悪いイメージが残存するのも確かだ。

 批判の一つとなったのが、メカニックデザインである。ジョージ・ルーカスは、旧3部作の無骨でジャンクな印象のデザインと差別化をはかり、宇宙船などの姿を、“旧き善き”時代の優雅なかたちで表現した。それはまさに、ルーカスの監督作『アメリカン・グラフィティ』(1973年)に登場する、曲線美ほこるヴィンテージ・カーを想起させるものだった。しかしその試みは、旧3部作とあまりに異なるものだったことから、ファンを失望させ、怨嗟の対象となったのである。

ボバ・フェット/The Book of Boba Fett

 当時、ナブー・スターファイターをデザインしたダグ・チャンは、その後も続3部作含めて、『スター・ウォーズ』シリーズの多くの作品にかかわっているが、内心忸怩たる思いがあったことは想像に難くない。しかし、自身が美術設計を務める『ボバ・フェット』にて、その機体は新たに整備されて、新たにクールな外装を手に入れたばかりか、『エピソード6』以降の時代では考えられないような、失われた時代の技術による圧倒的性能を披露するのである。しかも、『エピソード1』で描かれたように、タトゥイーンの渓谷を猛スピードで抜け、宇宙空間へと飛び出していくのである。この爽快で感動的な場面は、かつて散々に批判された『エピソード1』に、熱いオマージュを捧げているのだ。

 知っての通り続3部作、とくにJ・J・エイブラムス監督は、デザインや世界観を含め、様々な部分でルーカスの旧3部作の要素を採用し、レトロな魅力を表現し続けた。その事実は、新3部作を愛するファンにとっては、疎外感を味わわせるものだったといえる。なぜならそれは、「新3部作の試みは失敗だった」という一部ファンの意見を、新たな作り手たちが追認してしまっているようなものだったからだ。

ボバ・フェット/The Book of Boba Fett

 しかし、『マンダロリアン』、『ボバ・フェット』は、新3部作の時代を舞台にした『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』など複数の『スター・ウォーズ』アニメシリーズを製作・監督してきた、ルーカスフィルム・アニメーション出身のデイヴ・フィローニがプロデュースしているシリーズである。彼はファンの枠を超えた位置で、ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』シリーズに込めてきた意図への十分な理解がある。だからこそ、旧3部作、新3部作の違いに囚われず、シリーズにとって妥当な姿勢で世界観を作れるのである。それこそが、『マンダロリアン』が高い評価を得た真の理由なのではないだろうか。個人的には、すでに終了している続3部作をデイヴ・フィローニが、もし中心となって製作してくれていたら……と思わずにおれない。

 そんなデイヴ・フィローニ製作ということもあり、本シリーズには、『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』から、ボバ・フェットの強力なライバルとなる、ある老いたキャラクターが実写として登場する。かつてのアレック・ギネスが演じたオビ=ワン・ケノービと、ダース・ベイダーとの戦いのように、年を重ねたボバ・フェットと、そのライバルとの戦いは、テムエラ・モリソンだからこそ出せる味わいにあふれたものになったといえよう。

 ちなみに、日本語吹替版では、クリント・イーストウッドの吹き替えをしてきた多田野曜平が、ボバのライバルの声を担当し、まさにイーストウッドの出演する西部劇としか思えない一場面もある。これは、日本の視聴者にとって素晴らしいプレゼントだといえるだろう。

■配信情報
『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』
ディズニープラスにて独占配信中
(c)2022 Lucasfilm Ltd.

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