ナルシストを魅力に変える岩田剛典 『新解釈・三國志』で開いたコメディの扉
2020年に公開され、賛否両論を巻き起こした話題作『新解釈・三國志』がいよいよ地上波初放送である。大泉洋、賀来賢人、橋本環奈、ムロツヨシ、山田孝之、小栗旬といった人気俳優陣が集結し、コロナ禍という環境ながらも多くの観客を劇場に集めた同作の功績は多々あるが、そのうちの一つに、“岩ちゃんがコメディの扉を開いた”というものがあるだろう。そう、“岩ちゃん”こと岩田剛典は、本作で初めてコメディ作品の世界に身を投じているのだ。
本作はタイトルから分かるとおり、『三國志』を“新解釈”したもの。『銀魂』シリーズ(2017年〜2018年)や『今日から俺は‼︎劇場版』(2020年)などの福田雄一監督による解釈とあって、あまりにもフザけ散らかした作品となっている。合戦も、心理戦も、緊張感は一切ナシ。「賛否両論」と冒頭に記しはしたが、シリアスな気持ちにならざるを得ない先行き不透明なコロナ禍だからこそ、こういった作品を多くの人々が必要としたのかもしれない。そんな映画である。日本が誇る優れたプレイヤーたちの“わちゃわちゃ感”を楽しもう。
そんな作品で岩田が演じるのは、趙雲(ちょううん)。映画の公式サイトの人物紹介欄には、“劉備(大泉洋)の人柄に惚れ込み家臣となった武将。まだ乳飲み子であった劉備の息子を抱え、単騎で敵陣を突破するほどの闘志と誠実さを持ち合わせていた。という人物として知られているが……。”と記されている。これが本作の解釈では、やることなすことのいちいちが鼻につくナルシスト青年になっているのだ。
自身が言葉を発する際に不自然な(自分本意な)間を取ったり、何でもないタイミングでモデルポーズを決めたりと、非常に鼻につく。けれども、これが次第に魅力へと変わっていくのは、岩田が演じているからなのだろう。普段の岩田本人の快活で爽やかなパブリック・イメージが、この趙雲役にも反映されている。だからこそ、鼻についても腹は立たない。むしろ愛らしく思えてくるくらいだ。“イタい”キャラクターの性質上、“滑っている”かたちになっているわけだが、これが暑苦しい武人たちのなかで、観客に涼やかな笑いをもたらしてくれることだろう。
それにもちろん、アクションに関しては岩田がほかの者たちよりも秀でていると思う。さすがはキャリアのスタートがダンサーなだけあって、俊敏性が高く、身のこなしが軽やか。アクションシーンに関しての趙雲の一挙手一投足は実に鮮やかで、ここによりフォーカスしてほしいと思えるほど。これがあるからこそ、鼻につく印象とのバランスが取れているのかもしれない。