18カ月で一生分の体験をした男を映画化 『シルクロード.com』監督が問うネットの倫理
映画『シルクロード.com ―史上最大の闇サイト―』が1月21日より公開された。
本作は、違法ドラッグを自由に売買でき、「闇のアマゾン」や「ドラッグのイーベイ」などと呼ばれた闇サイト「シルクロード」創設者、ロス・ウルブリヒトの実話を基にした作品だ。
暗号通信ツールを使わないとアクセスできないダークウェブに開設されたこのサイトは、瞬く間に評判となり、大量の麻薬流通源となった。このサイトを立ち上げた若者ロス・ウルブリヒトは、世界を変えるため、より自由な世界を作るという夢のために邁進していたが、匿名の闇に呑まれていく。一方で、ロスを追うのはパソコンに疎いベテラン捜査官のリック。引退を間近に控え、家族のために一線を越えた捜査を展開し、誰も捕えることができなかったロスを追い詰めていく。
今回、リアルサウンド映画部は、本作の監督ティラー・ラッセルにインタビュー。製作経緯やネット社会における倫理観についてどう考えるかなど、話を聞いた。(杉本穂高)
18カ月で一生分の体験をした男
――監督は、この事件、あるいはロスという男のどんな点に興味を持ち映画化しようと思ったのですか?
ティラー・ラッセル(以下、ラッセル):ロスが逮捕されたのを翌日の新聞記事で知り、即座に興味が湧きました。サンフランシスコの図書館のSF蔵書コーナーにいたところを逮捕されたと点と、一見普通の好青年がなにやら相当稼いでいたらしいという事実が面白く感じました。彼に惹かれた最大の理由は、彼が辿った軌跡そのものです。最初は世界を変えたいと願っていたナイーブな若者が、あれよあれよという間にネット界の大物となってしまい、ギャングスタ―のような存在になってしまった。彼が「シルクロード」を開設して逮捕されるまでわずか18カ月で、一生分の体験をしたような人物です。そのスピード感が彼を半ば伝説のような人物にしてしまっていると思います。
――「シルクロード」は非合法サイトだったわけですが、児童ポルノは取り扱わないなど、ある時期までは一定の倫理観を持って運営されていました。そういう点から考えて、ロスの世界を良くしたいと言う気持ちは本物だったと思いますか?
ラッセル:彼の願望はとても純粋なものだったと思います。しかし、ロスは自分自身が生み出した怪物を制御できなくなってしまい、その中で幻想におぼれていくようになってしまったのだと思います。事の良し悪しについては彼自身も混乱していて、大きな葛藤を抱えていたでしょう。
――ロスを追いかけるベテラン捜査官のリックは、もう一人の主人公と言える存在です。彼をインターネットに疎い人物として描いたのはなぜですか?
ラッセル:オールドスクールな捜査手法に頼る捜査官とITの天才という対称性が面白いと思いました。実際の記録を調べてみると、この事件で2人の捜査官が汚職に手を染めて起訴されています。ネットの専門家とは思えない素人のような間違いを実際に犯していて、そこから足が付いたのですが、リックはそれらの捜査官の特徴や行動を合わせて作り上げたキャラクターです。対照的なキャラクターが衝突し、物語が動いていく点がこのストーリーの醍醐味です。実際に、このような事件を捜査する場合、ネットスキル以上に、犯罪者のマインドを読み解くことに長けた人物が活躍するものなのでしょう。
――リックは実際に起訴された汚職捜査官とは異なる人物ですが、その汚職に手を染めた捜査官たちはなぜミイラ取りがミイラになったのだと監督は考えていますか?
ラッセル:権力などの力は人を腐敗させるものです。ダークウェブの世界は高度な匿名性を実現させますが、匿名性もひとつの力となると思うのです。ロスはその魅力に取り憑かれてしまったわけですが、捜査官ですらその誘惑に抗えなかったのでしょう。この事件は、匿名性という力による腐敗を、2つの対立する立場からあぶり出したものだったと言えると思います。