18カ月で一生分の体験をした男を映画化 『シルクロード.com』監督が問うネットの倫理

『シルクロード.com』監督が語る制作意図

「シルクロード」とネットの倫理

――ロスは逮捕され終身刑を言い渡されました。しかし、彼を英雄視する人々も存在します。freeross.orgといったサイトでロスの無実を証明しようと活動している人たちがいますが、監督は本作の製作にあたり、ロスの信望者にも取材しているのでしょうか。

ラッセル:私が話を聞いた中で、最もロスに近しい人物は彼の元恋人です。彼女から、ロスが恋人としてどんな男性だったのかを聞き、それを参考にロスのキャラクターを作り上げました。それと、本作がアメリカで公開される直前にロスの母親とも会うことができました。彼女は、もし自分がロスの立場ならば、このように気にかけてくれる人がいることを嬉しく思うだろうと言っていました。私の考えでは、ロスをある種のシンボルとして祭り上げるような現象は、一度ネットの世界で始まってしまうとコントロール不可能なので、そうした人々が出現するのは、どうしようもないことなのだと思っています。

――「シルクロード」はわずか18カ月で崩壊しましたが、もし、仮にロスが当初の目標と倫理感を失わず、サイト運営を続けた場合、別の結末があり得たと監督は考えますか? 例えば、YouTubeは誕生当初は著作権を侵害しているコンテンツだらけでしたが、現在では、世界に多大な影響を与えるプラットフォームとしての地位を築いています。「シルクロード」はそういう存在になり得たと思いますか?

ラッセル:大変素晴らしい質問で、同時に答えるのが難しい質問でもありますね。「シルクロード」はどんどん巨大化し、制御不能になっていきましたが、ロスはなんとか自分なりのモラルをキープしようと努力はしたのだと思います。しかし、結局は呑み込まれてしまった。一方で、私たちが考えなくてはならないのは、このサイトは違法なドラッグを扱うサイトでもあったわけで、倫理を問うなら、最初から欠けている部分もあったと言えます。しかし、同時にこのサイトは社会に大きなインパクトを与えたことも事実です。例えば、ビットコインは、この事件がきっかけで大きく注目されるようになりました。以降、多くの人々が当たり前のようにビットコインを売買するようになったわけですから、一概に言えないとても難しい問題だと思います。

■公開情報
『シルクロード.com ―史上最大の闇サイト―』
新宿バルト9ほかにて公開中
監督・脚本:ティラー・ラッセル
出演:ジェイソン・クラーク、ニック・ロビンソン
原案:デヴィッド・クシュナー
配給:ショウゲート
2021年/アメリカ/スコープサイズ/5.1ch/117分/原題:Silk Road
(c)2020 SILK ROAD MOVIE,LLC ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://silkroad-movie.com
公式Twitter:@silkroadcom_jp

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