『逃げ恥』から『ハンオシ』へ なぜ“契約結婚ラブストーリー”は繰り返し描かれる?
利害関係の一致から恋愛感情抜きに結婚。価値観の違いによってぶつかりながらも、生活を共にするうちに気持ちが動いて……。現在オンエア中の『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系/以下『ハンオシ』)のプロットを抜き出してみると、同じく火曜ドラマ枠の名作として多くの視聴者の記憶に残る『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系/以下『逃げ恥』)を思い出す方も少なくないだろう。
『逃げ恥』では就職先としての結婚、『ハンオシ』は借金の肩代わり&許されない恋の隠れ蓑としての結婚という、その利害関係の派生の違いはあれど、周囲に対して大きな声では言えない理由での“契約結婚”という意味では確かに近いものを感じる。
とはいえ、“視聴率がすべてではない”と言われているものの、『ハンオシ』は視聴率10%前後を安定的に推移しており、手堅い人気を得る形となった。では、なぜ一見すると現実離れしているように感じる“契約結婚ラブストーリー”が、繰り返し描かれ、そして一定数の視聴者の共感を集めているのだろうか。
恋をしてもしていなくても、幸せにはなれる時代に
『ハンオシ』の主人公は、中堅デザイナーの明葉(清野菜名)。「いつか独立する」という目標を持ち、目の前の仕事にやりがいを感じながら、自分の好きなものを集めた部屋で自由気ままに過ごす“おひとり様”生活を送っていた。恋をしていなくても、結婚をしていなくても、彼女は十分幸せを噛み締めているのだ。
だが、大好きな祖母が倒れたことで事態は一変。祖母が大事にしている店を守ろうと、借金を肩代わりする羽目に。急に大金を用意することが難しいときに、声をかけたのが広告代理店に務める容姿端麗な営業マン・柊(坂口健太郎)だ。初恋の人である兄嫁への秘密の恋の隠れ蓑に“既婚者”という肩書きがほしい柊。そこで、借金返済までの期間限定で、明葉と柊の偽装結婚が始まる……というストーリーである。
令和の時代に「借金の肩代わりに身売り?」という野暮なツッコミなぞしないのが、ラブコメを楽しむお約束。だが、そんなふうにツッコミたくなるほどの“とんでも”設定くらいなければ、現代の働く“おひとり様”たちにとって、恋愛や結婚に労力をかけることが難しい時代なのかもしれない。
“ハラスメント”の認識が強まるほどに、かつてのように私生活に干渉する人は減ってきた。自分のペースで生きることができるメリットを享受する一方で、思わぬタイミングで誰かと急速に近づくということも少なくなったようにも思う。ほどよい“お節介”に背中を押される形でライフステージを変え、幸せを掴んできた層がいたのもまた事実なのだ。
そんな半強制的に自分の周囲の相関図が変化する機会も少なく、日々仕事に打ち込みながら生きる人にとって、恋愛や結婚は「今は無理にしなくてもいいもの」と、優先順位が下がってしまうのも無理はない。そして、いざ「そろそろ」と思っても、そのタイミングでは恋の始め方がよくわからなくなっている、というケースも。
だからこそ、仕事や借金といった生活がかかってくる問題になって、初めて人生の最優先事項として物語が動き出す“契約結婚ラブストーリー”は、そういう意味ではリアルなのかもしれない。こんなことでもなければ、恋愛なんて始まらないよ、と。波風立たない日常に、予想もしていなかった恋の暴風が吹き荒れる。そんなファンタジーを羨ましく思う人も多いのではないだろうか。