『最愛』に込められた“真実”は一言では言い表せない 登場人物たちの“愛の独白”に寄せて

『最愛』登場人物たちの“愛の独白”に寄せて

 第9話冒頭で、全ては会社と梨央のためと言っていた梓(薬師丸ひろ子)は、第8話において、元夫・達雄(光石研)のとった、子供たちを愛するがゆえの行動に対して「私も同じことをしたと思う」と言っていたが、その通りになった。それがたとえ「世間から見たら悪いこと」でも、達雄・梓元夫婦にとっては、大切な子供、並びに子供と同様に愛を注いだ会社と会社のスタッフたちを守るための「正義」だったからだ。

 大輝もまた、「お前と姉ちゃんが好きやった。2人が困ったらいつでも駆けつけると思っとったのに、何もできんかった」「あの時な、俺は気づけなかった。それで今度こそ何が何でも守りたかった」と二度にわたって当時の無力さを悔い、たとえ左遷されたとしても、梨央と優(高橋文哉)側に寄り添った行動をとった自分を間違ってなかったと感じている。だからきっと、無力だった後悔をバネにここまできた彼の人生は真実だ。

 そのため、第9話終盤、藤井(岡山天音)の台詞から浮上した大輝犯人説を全力で打ち消したいと思うのは、あんなに美味しそうにご飯を食べ、照れ笑いを浮かべる、「一緒にこれからのことを考える」関係になってもキスさえしない、不器用な目をした彼の人柄ゆえだろう。

 第6話で後藤(及川光博)が梨央に「社長の弱みは弟さんでしたか」と言ったように、愛する人を持つことは、ともすれば人の弱みにもなり得る。でも一方で、愛する人・ものがあったから、彼らは強くなることができた。特に梨央は、優という、愛する弟がいたから、その情熱で薬を創り、世界を動かそうとしている。

 遂に最終回。全ての謎が解けようとしている。第5話で「興奮したら記憶が飛んでしまう」ために「やっと会えたことを忘れたくない」からと連行されることを受け入れた優がいた。第8話では何らかの記憶が飛び、ボーっとしている優の姿があった。また、治験が無事進めば彼が何かを思い出していく可能性も考えられる。データとして呈示される「記録」ではなく、彼の身体の中に封印された「記憶」の中に謎を解く鍵があるという、この何ともロマンチックな仕掛けにもため息がでる。それぞれの「最愛」が交差するその先に、私たちは何を見るのか。

■放送情報
金曜ドラマ『最愛』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉、奥野瑛太、岡山天音、薬師丸ひろ子(特別出演)、光石研、酒向芳、津田健次郎、及川光博、井浦新
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子
編成:中西真央、東仲恵吾
主題歌:宇多田ヒカル(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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